中等度~重度の認知症患者には緩和ケアによる介入が必要とされる。米国・Regenstrief InstituteのGreg A. Sachs氏らは、IN-PEACE試験において、地域在住の中等度~重度の認知症患者とその介護者では、通常のケアと比較して緩和ケアを統合した認知症ケアの管理プログラムは、24ヵ月間を通して患者の神経精神症状を緩和せず、介護者の抑うつ状態や苦痛も改善しないことを示した。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2025年1月29日号で報告された。
インディアナ州中部地域の無作為化臨床試験
IN-PEACE試験は、中等度~重度の認知症患者とその介護者における、緩和ケアを統合した認知症ケアの管理プログラムの有用性を評価する無作為化臨床試験であり、2019年3月~2020年12月に米国インディアナ州中部の2つの施設で参加者を登録した(米国国立老化研究所[NIA]の助成を受けた)。
電子健康記録(EHR)をスクリーニングして年齢65歳以上の中等度~重度の認知症患者を特定し、介護者が認知症の病期を含む適格性を確認した。介護者は年齢18歳以上で、患者の日常生活の支援を行う中心的な人物とした。患者と介護者を1組として、緩和ケア群または通常ケア群に無作為に割り付けた。
介入は、研修を受けた看護師またはソーシャルワーカーからの毎月の電話、および介護者による患者の神経精神症状、介護者自身の苦痛、緩和ケアの問題(たとえば、アドバンス・ケア・プランニング、症状、ホスピスなど)の管理を支援するエビデンスに基づくプロトコールで構成された。通常ケア群では、介護者は認知症に関するリソースとなる情報を受け取り、患者は臨床医による通常のケアを受けた。
主要アウトカムは、Neuropsychiatric Inventory Questionnaire(NPI-Q)の重症度スコア(0~36点、高点数ほど患者の症状が悪化していることを示す)とした。副次アウトカムは、患者のSymptom Management in End-of-Life Dementia(SM-EOLD)スコア(0~45点、高点数ほど9つの症状のコントロールが良好であることを示す)、介護者の抑うつ(Patient Health Questionnaire-8:PHQ-8)スコア(0~24点、高点数ほど抑うつ症状が多いことを示す)、介護者の苦痛(NPI-Q distress)スコア(0~60点、高点数ほど苦痛が大きいことを示す)、および救急診療部受診と入院の複合イベントであった。
NPI-Q重症度スコアの経時的な変化率に差はない
患者(平均年齢83.6歳、女性67.7%)と介護者(60.5歳、81.1%)の201組を登録した。緩和ケア群が99組、通常ケア群が102組であった。患者の96%がFunctional Assessment Staging Tool(FAST)のステージが6または7(中等度~重度の認知症)であり、患者と介護者の40%以上がアフリカ系アメリカ人だった。試験期間中に3組が脱落し、83例の患者が死亡した。
NPI-Q重症度スコアの平均値は、ベースラインにおいて緩和ケア群9.92点、通常ケア群9.41点、24ヵ月後はそれぞれ9.15点および9.39点であり(24ヵ月時の群間差:-0.24[95%信頼区間[CI]:-2.33~1.84])、ベースラインからの経時的な変化率に群間差を認めなかった(群と時間の交互作用のp=0.87)。
救急診療部受診と入院の複合イベントは緩和ケア群で良好
24ヵ月時の患者のSM-EOLDスコア(群間差:1.74[95%CI:-1.03~4.50])、介護者のPHQ-8スコア(-0.05[-1.46~1.36])、介護者のNPI-Q distressスコア(-0.87[-3.83~2.10])については、いずれも両群間に有意な差はなかった。一方、救急診療部受診と入院の複合イベントは、緩和ケア群で少なかった(1例当たりの平均イベント数:緩和ケア群1.06 vs.通常ケア群2.37、群間差:-1.31[95%CI:-1.93~-0.69]、相対リスク:0.45[95%CI:0.31~0.65])。
著者は、「救急診療部受診や入院の減少は大幅な費用削減につながる可能性があるが、これは本試験の目的ではなく、今後、さらに評価を進める必要があるだろう」「患者および介護者の症状や苦痛に関するアウトカムがいずれも改善しなかったことは予期せぬ所見であったが、主な原因としてベースライン時の症状および苦痛の負荷が比較的低かったために、これらの結果が改善される範囲が限定された可能性がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)