HIV感染乳児は年長児よりも疾患の進行が早く、死亡率も高い。特にCD4リンパ球の割合(CD4パーセンテージ)が高いほどその傾向が強まる。そのため抗レトロウイルス療法の早期開始が求められるが、利用できる薬剤や毒性の問題などが解決されていなかった。本報告は、HIV感染乳児への抗レトロウイルス療法戦略を検討するChildren with HIV Early Antiretroviral Therapy(CHER)試験のフェイズIIIからの早期アウトカムの報告で、NEJM誌2008年11月20日号に掲載された。
治療開始待機群と早期治療群に無作為割付
CHER試験は、英国MRC臨床試験ユニットとNIHが南アフリカ共和国との共同で取り組む国際的なAIDS研究プログラムで、南アフリカの2つのセンターを拠点とする無作為化オープンラベル試験。胎内もしくは分娩時にHIV感染した生後6週~12週のCD4パーセンテージ25%以上の乳児が登録され、3つの治療群、(1)CD4パーセンテージが20%未満(1歳未満の場合は25%未満)に低下した場合に治療開始、(2)臨床基準(2006年版WHOガイドライン準拠)を満たした場合に治療開始(待機群)、(3)即時開始し1歳もしくは2歳時まで治療(早期治療群)、に無作為に割り付けられ実行された。抗レトロウイルス療法は、ロピナビル-リトナビル、ジドブジン、ラミブジン。
本論では、待機群と早期治療群とを比較検討した2007年6月時点での早期アウトカム(死亡、疾病の進行)が報告された。
早期治療群のほうが死亡率75%、病期の進行76%低下
対象乳児は2005年8月~2007年2月の間に登録された待機群125例、早期治療群252例で、年齢の中央値7.4週、CD4パーセンテージの中央値は35.2%だった。待機群は追跡期間中央値40週後に、66%が抗レトロウイルス療法を開始していた。
死亡は、待機群20例(16%)、早期治療群は10例(4%)で、ハザード比は0.24(95%信頼区間:0.11~0.51、P<0.001)であった。
米国疾病対策予防センター(CDC)の指標に基づく病期がC、または重度のBに進行したのは待機群では32例(26%)、早期治療群は16例(6%)で、ハザード比は0.25(95%信頼区間:0.15~0.41、P<0.001)であった。
永続的に投与が中止された薬剤はなかったが、早期治療群で、好中球減少3例、貧血1例が確認された計4例について、投与薬剤がジドブジンからスタブジンに変更されていた。
研究グループは「HIVの早期診断、早期抗レトロウイルス療法の開始により、乳児の早期死亡率は76%、病期進行は75%低下した」と結論。待機群は、データ・安全性モニタリング委員会の検討後に全例が抗レトロウイルス療法の開始について再評価を受けた。
(朝田哲明:医療ライター)