生物工学的に免疫応答を起こさないようにデザインされた人工気管の移植に、バルセロナ市(スペイン)のHospital Clinic一般胸部外科のPaolo Macchiarini氏らが成功した。移植片は、組織細胞と主要組織適合複合体(MHC)抗原を除去したドナーの気管基質にレシピエントの幹細胞由来細胞を導入して作製された。Lancet誌2008年12月13日号(オンライン版2008年11月19日号)に掲載された本論文は、同誌の“Paper of the Year 2008”の候補にも選定されている(http://www.lexisnexis.com/dpartner/process.asp?qs_id=3885)。
レシピエントは30歳、末期気管支軟化症の女性患者
健常な気道の喪失は重篤な病態であるが、これまでに試みられた気道置換術はいずれも深刻な問題をもたらし、不成功に終わっているという。一方、最近、
in vitroでの気管基質の生成や、動物実験における免疫応答のない同種および異種移植された気管の構築など、有望な知見が報告されている。
研究グループは、組織工学的プロトコールを用いて管状の気管基質を生物工学的に作製し、これを末期気道疾患患者に移植してその評価を行った。レシピエントは30歳の末期気管支軟化症の女性患者で、ドナーは脳出血で死亡した51歳の女性であった。
ドナーの気管から組織細胞とMHC抗原を除去して気管基質を作製した。これに、レシピエントの細胞から培養した上皮細胞と間葉幹細胞由来の軟骨細胞を播種してコロニー形成を促し、6.5cm長の移植片を作製した。この移植片が、左主気管支としてレシピエントに移植された(術中に欠損部に合わせて5.0cm長に切断)。
免疫抑制薬不要、今後は自己細胞と適切な生体材料の組み合わせが有望か
移植片は、移植後ただちにレシピエントの気道として機能し、患者QOLの改善をもたらした。4ヵ月後には、移植片の外観および機械的特性も正常化した。抗ドナー抗体の発現は見られず、免疫抑制薬は不要であった。
これらの結果により、「正常な機能をもたらす機械的特性を備え、拒絶反応のリスクもない気道を細胞組織工学的に作製することは可能である」と著者は結論し、「今後は、自己細胞と適切な生体材料を組み合わせたアプローチが、臨床的に深刻な病態にある患者の治療を成功に導く可能性がある」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)