CLEAR!ジャーナル四天王|page:67

「研究」からプロの「ビジネス」への転換:ランダム化比較試験の現在(解説:後藤 信哉 氏)-542

長らく臨床をしていると、日本にいても肺塞栓症などの経験はある。1980年代~90年代には循環器内科以外の内科の病棟管理もしていたが、一般の内科の救急入院症例に対して一般的に抗凝固療法が必要と感じたことはなかった。中心静脈カテールを内頸静脈から入れることが多かったが、内頸静脈アプローチが失敗した場合、下腿静脈アプローチとならざるを得ない場合もあった。後日、米国に友人を持つようになると、彼らにとっては下腿静脈からの留置カテーテルは血栓源として恐れられていることを知って、日米の差異に驚愕した。

医療機器臨床試験の事前届出システム:日米どちらのシステムが良いのか?(解説:折笠 秀樹 氏)-541

米国FDAは医療機器をリスクの程度に応じて、Class I~IIIの3種類に分類している。承認プロセスとしては、免除(Exemption)・届出510(k)・承認(Premarket approval;PMA)の3種類がある。Class I(低リスク)ではほとんどが免除であり、Class II(中リスク)ではほとんどが届出510(k)、そしてClass III(高リスク)は承認(PMA)を課せられることが多い。先発機器と実質的同等(substantially equivalent)であれば届出で済ませられるが、そうでなければ承認が必要となる。承認の場合には、安全性・有効性を証明する臨床データ、つまり臨床試験が必須となる。

SPRINT試験:frailな高齢者でも厳格な降圧が有用であることを示した点で画期的、ただし腎機能の悪化や有害事象も起こりやすい(解説:桑島 巖 氏)-540

今回のSPRINTサブ解析では、75歳以上の高齢者高血圧では収縮期血圧140mmHg未満を目指す標準降圧群よりも、120mmHg未満の厳格降圧群のほうが生命予後の改善に良好であることを示した点で画期的である。サブ解析とはいえども対象数は2,636例と、解析には十分堪えられる症例数であり、信頼性は高い。

SOCRATES試験:薬剤開発は難しい~良いと示すか、良さそうで終えるかの大きな相違(解説:後藤 信哉 氏)-539

薬剤の適応取得には、薬剤の有効性、安全性の科学的証明が必須と考えるのが世界のルールである。抗血小板薬を長期大量投与すれば出血イベントは増えると予想され、血栓イベントは減ると予想される。当局の認可承認を目指す試験では、過去の標準治療に比較して血栓イベントを減らし、出血イベントに差がないことを示すことが求められる。登録症例数が増えれば、臨床試験にかかるコストは増える。症例登録に時間がかかれば、認可承認されても十分利益を得る前に、薬剤の特許と独占販売権が消失してしまう。薬剤の認可承認を目指す臨床試験は本当に難しい。盲検のキーを開けるまで、試験関係者は胃がただれるほどのストレスであろう。

サブプライムローンとEBMの類似性(解説:後藤 信哉 氏)-537

日本語と異なり、英語は決定論的、論理的言語である。日本語で考えるわれわれ日本人は、英語で考える米英人の発想法を完全には理解できない。サブプライムローンを販売した米国の金融会社は、「将来経済は成長する」という前提が正しい限り「サブプライムローンは破綻しない」と人々を説得し、その説得には論理性があったので、多くの人は自分の今の収入以上のローンを抱えた。確かに、100年の視点でみれば「経済は成長する」のかもしれないが、数年の規模では成長したり衰退したりすることを、われわれは感覚的に実感している。日本語の論理性は英語ほど精緻ではないので、日本人であれば自分の収入に見合わない借金は「なんか怖い」と感じる人が多いだろう。日本語は論理性では英語に劣るが、その分、日本語で考えるわれわれは米英人より直感力が優れている。

ネット時代のうつ病予防(解説:岡村 毅 氏)-535

本論文は、抑うつ傾向が強いものの大うつ病を発症していない406例を対象としたRCTの報告である。介入群は、オンラインで行う疾病教育、行動療法、問題解決療法をベースにしたプログラムを受けたうえで、臨床心理士の指導を受けた院生などによるフィードバックを受ける。12ヵ月後の大うつ病の発症は対照群の41%に対して、介入群では27%であった。5.9例に介入することで1例の発症を予防したことになるとのこと。非常に効果があるうえに、情報化の進んだ現代においては実現可能性も高い新たな方法論であり、注目に値するだろう。

心房細動に対する肺静脈隔離:クライオバルーン法は高周波アブレーション法に効果として非劣性、同等の安全性(解説:今井 靖 氏)-534

薬物治療抵抗性発作性心房細動に対して、カテーテルアブレーションによる肺静脈隔離術は、ガイドラインにおいて推奨される治療法として確立している。高周波カテーテルアブレーションが広く普及しているが、クライオバルーン法がそれに続く治療法として注目を集めており、本邦においても昨年秋から広く実施されるようになった。

飽和脂肪酸をω6-リノール酸で置換する食事療法はコレステロールを低下させるが冠動脈疾患イベントや死亡を改善せず、むしろ悪化させる可能性がある!(解説:島田 俊夫 氏)-532

Anitschkowがウサギにコレステロールと飽和脂肪酸を食べさせることで大動脈に脂肪蓄積を誘導して以来、アテローム硬化発生への食事の役割は1世紀余りにわたり研究されてきた。血清コレステロールの増加と冠動脈疾患の関係について詳細に研究されたが、冠動脈疾患予防・治療に関する伝統的食事―心臓仮説(The traditional diet-heart hypothesis)の真偽に関してはいまだ結論に至らず、議論の多いところでもある。

急性腎障害の実態は国の事情により大きく異なる~詳細な実態把握と対策が望まれる~(解説:木村 健二郎 氏)-531

acute kidney injury(AKI:急性腎障害)という言葉が、acute renal failure(急性腎不全)という言葉の代わりに使われるようになった。そのいきさつは、急激に腎機能が低下する病態は、以前いわれていたように決して予後の良いものではないことが明らかになってきたこと、早く診断して治療すれば回復のチャンスがあることなどから、早期診断を可能とする診断基準と評価のための病期分類が必要とされるようになったことによる。

SAPIEN 3のTAVR、intermediate riskの高度AS症例における1年間の治療成績はSAVRに優る(解説:許 俊鋭 氏)-528

外科的AVR(SAVR)がintermediate riskと考えられる症例で、SAPIEN 3を用いたTAVRとSAVRの長期成績を比較した。SAVR症例は、PARTNER 2A試験の背景のpropensity scoreを一致させたSAVR症例と、1年の全死亡、脳卒中合併症率、再手術率、大動脈弁周囲逆流発生率を比較した。primary end pointは、全死亡、脳卒中合併症率、中等度~高度大動脈弁周囲逆流発生率の複合治療成績を比較した。

PARTNER 2試験:TAVRのintermediate riskの高度AS症例における2年間の治療成績はSAVRと同等(解説:許 俊鋭 氏)-527

第1世代のデバイス(SAPIEN)を用いたTAVRは、手術不能大動脈弁狭窄症(AS)および手術がhigh riskと考えられるASに対する治療として、すでに認知されてきた。その後、術者の習熟度が高まるとともにデバイスの改良がなされ、より治療成績が向上し、TAVRはlow riskあるいはintermediate risk 症例に適応が拡大しつつある。

ixCELL-DCM試験:自己骨髄由来の細胞移植で虚血性心筋症患者の予後が改善(解説:佐田 政隆 氏)-526

高度低左心機能患者の延命、社会復帰のための、現在確立した唯一の治療手段は心臓移植である。しかし、ドナーの数は絶対的に少なく、20年ほど前から心筋再生療法に多くの関心が寄せられている。自己の末梢血中の内皮前駆細胞や骨髄幹細胞、心筋内幹細胞、脂肪組織由来幹細胞などの移植が、動物モデルでは心機能に対して劇的な効果をもたらすことが次々と報告された。

PATHWAY-2試験:治療抵抗性高血圧例の治療に非常に参考になるが、解釈には十分な注意が必要な研究結果(解説:桑島 巖 氏)-525

カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬/ARB、サイアザイド系利尿薬の3剤併用しても、降圧不十分な高血圧は治療抵抗性と呼ばれるが、日常診療でもしばしば遭遇し、次に何を追加するべきかに悩むことは少なくない。一般にはα遮断薬、β遮断薬、抗アルドステロン薬のいずれかを選択することになるが、その優劣に関するRCTによるエビデンスはほとんどなかった。

冠動脈バイパス術が長期生命予後改善効果を有することが22年ぶりに報告された(解説:大野 貴之 氏)-524

虚血性心筋症(EF35%以下の低心機能を伴った安定冠動脈疾患)に対する治療として、薬物治療群(602例)とCABG群(610例)を比較したランダム化試験がSTICH試験である。2011年に追跡期間5年の結果が報告されたが、心臓血管死に関してはぎりぎり有意差を検出したが、全死亡に関して有意差は検出されなかった。今回、追跡10年間の結果が報告された。その結果、全死亡は薬物群66.1%に対してCABG群58.9%(p=0.02)、心臓血管死は49.3%対して40.5%(p=0.006)であった。

GAUSS-3試験:PCSK9抗体による新たなコレステロール低下療法の可能性―心血管イベント抑制につながるのか?(解説:平山 篤志 氏)-523

冠危険因子としてのLDL-コレステロール(LDL-C)をスタチンにより低下させることによって、冠動脈疾患の1次予防、2次予防が有効になされることは、多くの大規模臨床試験で示されてきた。しかし、スタチンの服用により、筋肉痛あるいは無痛性の筋肉障害があることが知られている。その頻度は、1~5%、時には20%くらいあるといわれている。このようにスタチンで筋肉症状を訴える患者のコレステロール治療としては、吸収阻害薬であるエゼチミブが用いられていた。一方、LDL-Cと結合したLDL-C受容体は、血中のPCSK9が結合すると細胞内で壊され再利用ができなくなる。PCSK9を阻害する抗体であるエボロクマブにより、スタチン服用患者でもLDL-Cが60%以上減少することが示されている。