CLEAR!ジャーナル四天王|page:43

プライマリケアにおける高齢者の尿路感染症には速やかな抗菌薬処方が有効(解説:小金丸博氏)-1023

尿路感染症は高齢者における最も代表的な細菌感染症である。重症度は自然軽快する軽症のものから、死亡率が20~40%に至る重症敗血症まで幅広い。高齢者では典型的な臨床経過や局所症状を認めないことも多く、診断は困難である。そのうえ、65歳以上の女性の20%以上に無症候性細菌尿を認めることが尿路感染症の診断をさらに困難にする。現在、薬剤耐性菌を減らすための対策として世界中で抗菌薬の適正使用を推進する動きがある。最近の英国からの報告によると、2004年~2014年の間にプライマリケアにおける高齢者の尿路感染症に対する広域抗菌薬の処方は減少していたが、その一方でグラム陰性菌による血流感染症が増加しており、その関連性が議論されている。

重症患者の薬物療法に間欠的空気圧迫法併用はVTE予防メリットなし(解説:中澤達氏)-1022

国際多施設共同無作為化比較試験(Pneumatic Compression for Preventing Venous Thromboembolism trial:PREVENT試験)で、静脈血栓塞栓症(VTE)の薬物予防法を受けている重症患者において、付加的な間欠的空気圧迫法を薬物予防法のみと比較したが、近位下肢深部静脈血栓症の発生は減少しなかった。急性期脳卒中患者(発症後3日以内、身体機能低下、身辺動作の自立度低下あり)を対象とするCLOTS 3試験(間欠的空気圧迫法によって、3.6%のリスク減少)とは異なる結果となった。

食べ物と認知症(解説:岡村毅氏)-1021

これを食べると認知症にならない、というものはあるのだろうか?「危険な食べ物」などの読み物は世の中にあふれているが、科学とは別物だ。私自身も楽しく読んだり見たりするので、批判はしないが…それに支配されて生活している人がいるのは困った現象だ。「やれ○○がいいとか悪いとか言いながら好き放題食べている日本人の何と多いことか…」さて本研究はおよそ四半世紀という長い観察期間をとって、食べ物と認知症の発症の関係をみたものであった。臨床家は皆同意すると思うが、有意な関連はみられなかった。食べ物についてはAHEIという指標で包括的に見ている(個別ではない)点が限界(limitation)といえるが、ほかに現実的なやり方はないであろう。とはいえ、健康的な食生活はほかの多くの疾患を予防するので、健康的な食生活が望ましいことは変わりないので早とちりなきよう。

Trop-2に対する抗体と抗がん剤の複合体は転移性のTNBCに有効である可能性を示唆(解説:矢形寛氏)-1020

trophoblast cell-surface antigen 2(Trop-2)は正常組織ではわずかしか発現していないのに対し、がん腫では広く発現していることが知られている。TNBCでは80%以上に発現しているようで、注目すべき標的となっていた。sacituzumab govitecan-hziyは、抗Trop-2抗体にSN-38(化学療法薬イリノテカンの活性代謝物)を結合させた抗体薬物複合体(ADC)であり、乳がん領域ではADCとしてT-DM1がすでに臨床応用されている。本試験は第1/2相試験であり、2レジメン以上の治療を受けたTNBC患者が対象となっている。

誤解されやすいが重要な研究(解説:野間重孝氏)-1019

多くの忙しい医師たちは論文を熟読するよりabstract部分をチェックして、自分が本当に興味のあるものならば熟読するし、そう思えなかった場合はすぐに次の論文のチェックに移っていくというのが実情なのではないかと思う。そう考えると、バッグマスクによる陽圧換気が誤嚥リスクを増大させるのではないかという問題にあまり関心がない医師がこの論文を読んだ場合、低酸素血症の発生頻度がバッグマスクによる陽圧換気群で低かったという一見当たり前の結論のほうばかりに目が行ってしまい、著者らの研究の真意が伝わらなかった可能性が懸念される。著者らが言いたかったことは結論の後半部分で、バッグマスク陽圧呼吸は誤嚥を増加させなかったというほうなのである。

女性研究者は性差に関する論文を多く書いていた(解説:折笠秀樹氏)-1018

本研究では、計量書誌学(Bibliometrics)という珍しい手法が使われた。図書館情報学ではよく使われる手法のようだ。著者の性別を知るために、Web of Scienceという文献データベースでは、2008年から姓(Family name or Last name)と名(Given name or First name)を分けてデータベース化し始めたようである。けれども、名から性別をどう判別するのだろうか。基本は言語や国ごとに、名と性別を対応させたリストをデータベース化しているようである。しかしながら、イニシャルしか書いていない論文があるらしく、性別が判明しなかったのも25%近くあったようだ。

女性で研究助成採択率が低いのは、研究レベルが低いわけではなかった(解説:折笠秀樹氏)-1017

研究助成の採択率は、男性研究者のほうが高いといわれていた。それを大規模な調査で裏付けた結果が得られた。それ以上に、どうして女性研究者の採択率が低くなるか、その原因の一端も見えた気がする。カナダ政府へのグラント申請2万3,918件について、その中身を調べた。全体の採択率は、男性で16.4%、女性で14.6%であった。その差は1.8%だが、年齢や研究分野で合わせると、その実質差は0.9%であった。男女差は意外に小さいなという印象を持った。

インスリンアナログとヒトインスリンのどちらを使用すべきか?(解説:住谷哲氏)-1016

はじめに、わが国におけるインスリン製剤の薬価を見てみよう。すべて2018年におけるプレフィルドタイプのキット製剤(300単位/本、メーカー名は省略)の薬価である。インスリンアナログは、ノボラピッド注1,925円、ヒューマログ注1,470円、アピドラ注2,173円(以上、超速効型)、トレシーバ注2,502円、ランタス注1,936円、インスリングラルギンBS注1,481円、レベミル注2,493円(以上、持効型)。ヒトインスリンは、ノボリンR注1,855円、ヒューマリンR注1,590円(以上、速効型)、ノボリンN注1,902円、ヒューマリンN注1,659円(以上、中間型)。つまり、わが国でインスリン頻回注射療法(MDI)を最も安く実施するための選択肢は、インスリンアナログのインスリングラルギンBS注とヒューマログ注の組み合わせになる。さらにわが国においてはインスリンアナログとヒトインスリンの薬価差はそれほどなく、ヒューマログ注とヒューマリンR注のようにインスリンアナログのほうが低薬価の場合もある。したがって、本論文における医療費削減に関する検討はわが国には適用できない。それに対して米国では、インスリンアナログはヒトインスリンに比較してきわめて高価であり(本論文によると米国では10倍の差のある場合もあるらしい)、インスリンアナログをヒトインスリンに変更することでどれくらい医療費が削減できるかを検討した本論文が意味を持つことになる。

MRSA保菌者に対する退院後の除菌療法(解説:小金丸博氏)-1015

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、皮膚軟部組織感染症や医療処置に関連した感染症の原因として頻度が高い微生物である。MRSA保菌者では除菌することによって、手術部位感染症、繰り返す皮膚感染症、集中治療室における感染症のリスクを減らすことが過去の研究で示されている。MRSAを保菌している入院患者は退院後の感染リスクが高いことが知られており、今回、これらの患者に対する衛生教育や除菌療法の有用性を検討した研究が発表された。

超急性期に脳卒中が疑われる患者に対する搬送中の経皮型ニトロは機能的転帰を改善しない(中川原譲二氏)-1014

高血圧は急性期脳卒中によくみられ、不良なアウトカムの予測因子である。大規模な降圧試験でさまざまな結果が示されているが、超急性期の脳卒中に関する高血圧のマネジメントについては不明なままだった。著者らは、経皮型ニトログリセリン(GTN)が、発症後超早期に投与された場合に、転帰を改善するかどうかについて検討した。 研究グループ「The RIGHT-2 Investigators」は多施設共同の救急隊員による救急車内でのシャム対照無作為化試験を行った。被験者は、4時間以内に脳卒中を発症したと考えられ、FAST(face-arm-speech-time)スコアは2または3、収縮期血圧値が120mmHg以上の成人だった。被験者を無作為に2群に分け、GTN群には経皮型GTNを投与し(5mg/日を4日間)、シャム群にはシャム処置を、いずれも救急隊員が開始し、病院到着後も継続した。救急隊員は治療についてマスキングされなかったが、被験者はマスキングされた。主要アウトカムは、90日後の7段階修正Rankin Scale(mRS)による機能的アウトカムのスコアだった。評価は治療についてマスキングされた追跡調査員が電話で行った。分析は段階的に行い、まずは脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)と診断された患者について(コホート1)、次に被験者全員を対象に無作為化した患者について行った(コホート2)。

新規のアミノグリコシド系抗菌薬plazomicinの複雑性尿路感染症に対する効果(解説:吉田敦氏)-1013

腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の薬剤耐性は、現在、われわれが日常最も遭遇する薬剤耐性と言ってよいであろう。たとえば本邦で分離される大腸菌の約4割はフルオロキノロン耐性、約2割はESBL産生菌である。実際に複雑性尿路感染症の治療を開始する際に、主原因である腸内細菌科細菌の抗菌薬耐性をまったく危惧しない場合は、ほぼないと言えるのではないだろうか。そして結果としてβラクタム系およびフルオロキノロン系が使用できないと判明した際、残る貴重な選択肢の1つはアミノグリコシド系であるが、腎障害等の副作用が使用を慎重にさせている点は否めない。

死と隣り合わせの日々を超えて(解説:岡村毅氏)-1012

集中治療室(ICU)では、患者は緊迫した部屋の中でさまざまな機械につながれる。陽の光は当たらず、時間もわからないこともある。睡眠は浅くなり、感覚は麻痺してゆく。患者はコミュニケーションができない状態であることもある。しかし自分以外の多くの患者が苦しみ、時に亡くなることはよくわかる。それはあまりにも苛烈な体験である。生き延びて無事に退院しても、「今も自分がそこにいるような体験をする」「多少似ているだけのものをも回避する」「常に覚醒し休まらない」といった事態が起きる。心的外傷後ストレス障害(PTSD)である。

血液凝固の難しいところ(解説:後藤信哉氏)-1011

血液凝固、血栓の非専門医は、Xa阻害はトロンビン阻害の上流程度の認識をしている。Xa阻害薬とトロンビン阻害薬が商業的にNOAC、DOACなどと包括されたことも誤解を増した。実際にはトロンビン阻害薬とXa阻害薬には本質的な差異がある。Xaは活性化血小板などの細胞膜上にて、他の凝固因子、リン脂質とプロトロンビナーゼ複合体を形成してトロンビン産生速度を上昇させる。トロンビン阻害薬の効果を阻害するためには、液相のトロンビンの酵素阻害作用を解除させればよかった。Xaは、液相に存在するものよりも、細胞膜上にてプロトロンビナーゼ複合体を構成している役割のほうが大きい。トロンビン阻害薬の効果は抗体により阻害できた。Xa阻害薬では、細胞膜上のプロトロンビナーゼ複合体中のXaの機能も阻害されているため液相のXa阻害の中和に加えて細胞膜上のXa阻害の中和の工夫が必要である。

不安は治るのだろうか?(解説:岡村毅氏)-1010

臨床経験のある方は十分におわかりだと思うが、不安症の人はさまざまな身体の症状を訴えてプライマリケアを受診する。したがって、精神科・心療内科のみならず、すべての科で不安な人に出会うと思っておいたほうがいいだろう。本論文ではデュロキセチン、プレガバリン、ベンラファキシン、エスシタロプラムが優れているとされた。まずデュロキセチン、ベンラファキシン、エスシタロプラムは比較的新しく、また臨床でもよく使用されるSSRIあるいはSNRIであり、きわめて妥当な結論だろう。プレガバリンについてはオフラベルとなるためコメントは難しい。

要するにLAD(解説:今中和人氏)-1008

本邦の初回冠動脈バイパス術の在院死亡率は1%台で安定し、PCIなど他の治療との比較にしても、オフポンプ手術にしても、グラフト素材にしても、論点はもっぱら長期予後である。本論文は、英国を中心とする28施設での冠動脈バイパス3,102例を、内胸動脈を1本(片側)使うか2本(両側)使うかでランダム化した前向き試験の10年報告である。バイパスは平均3本で、内胸動脈はいずれも左冠動脈系に吻合された。検討項目は全死因死亡、心臓死、心筋梗塞、脳卒中、再血行再建、周術期の出血と創感染である。

揚げ物フェチの死亡リスクは上昇する可能性高い?(解説:島田俊夫氏)-1009

私達は生きるために、食物を摂取することによりエネルギーを獲得している。ところが、現代社会では、昔と異なり自宅で食事をする習慣が希薄になり、外食産業への依存が増していることは明らかな事実である。なかでも揚げ物は、調理の簡便性や嗜好の視点から好まれる傾向がある。とくにファストフードの普及で、フライドチキン、フライドポテト1)らが、世界中の多くの国々において、日々の生活の中で愛用されている。このような食生活環境の変化の中で、揚げ物、とくにフライドチキンや魚介類フライの摂取量増加が死亡リスク高めている可能性を、米国・アイオワ大学のYangbo Sun氏らが、閉経後女性を対象とした大規模前向きコホート研究(Women’s Health Initiative:WHI)のデータ解析結果から明らかにし、揚げ物による深刻な死亡率への影響を2019年1月23日のBMJ誌に報告した。この論文に関して私的見解をコメントする。

感染性心内膜炎の静注抗菌薬による治療を部分的に経口抗菌薬に変更できるか(解説:吉田敦氏)-1007

感染性心内膜炎の静注抗菌薬による治療は長期にわたる。中には臨床的に安定したため、抗菌薬の静注が入院の主な理由になってしまう例もある。安定した時期に退院とし、外来で静注抗菌薬の投与を続けることも考えられるが、この場合、患者本人の負担は大きく、医療機関側の準備にも配慮しなければならない。このような背景から、今回デンマークにおいて左心系の感染性心内膜炎を対象とし、静注抗菌薬による治療を10日以上行って安定した例において、そのまま静注抗菌薬を継続・完遂するコントロール群と(治療期間中央値19日)、経口抗菌薬にスイッチして完遂する群(同17日)について、死亡率、(あらかじめ想定されていない)心臓手術率、塞栓発生率、菌血症の再発率が比較された(プライマリーアウトカム指標)。

腎疾患・CKDも遺伝子診断の時代へ!(解説:石上友章氏)-1006

本邦でも、ミレニアム・プロジェクトと題した国家プロジェクトがあり、ヒト疾患ゲノム解析が、その中の1つのプロジェクトとして採用されていた。当時は、キャピラリー・シークエンサーの時代で、逐次処理的に塩基配列を解読するため、膨大な設備と長時間の解析が必要であった。当時筆者が勤務していた米国・ユタ大学エクルズ人類遺伝学研究所には、国際的なヒトゲノムコンソーシアムの拠点があり、広いフロア一面を占めるキャピラリー・シークエンサーに感動を覚えた記憶がある。技術は進歩し、1,000ドルゲノムの時代を迎えて、個別化した全ゲノム解析が視野に入ってきた。現在では、いわゆる次世代シークエンサー(NGS)が汎用化し、これまで研究レベルであった分子遺伝学の成果が、臨床医にも手が届く時代を迎えている。今では、がんクリニカルシークエンス検査が、原発不明がんや、既存の治療に応答しない難治性がんの診療に応用されている。米国・コロンビア大学のEmily E. Groopman氏は、エクソーム解析を既知のCKDコホート計3,315例に対して行い、腎疾患・CKDにおける遺伝子診断の可能性について検討した1)。その結果は、307例(9.3%)に遺伝子診断をつけることができた。既知の原因遺伝子と疾患表現型が、必ずしも一致しない症例も少なからず認められた。

ハイリスク症例に絞って検討していたらどうだったのだろうか?(解説:野間重孝氏、下地顕一郎氏)-1005

急性心筋梗塞においては、急性期緊急PCIが導入される前の院内死亡率は20%を超えていたが、PCIが導入されて以降、ほぼ確実に心表面の責任冠動脈を再灌流させることが可能となり、この疾患による急性期の死亡率は6%程度にまで劇的に改善した。しかし、昨年のCenko Eらによる報告でも、primary PCIを受けた群での急性期の死亡率は4%前半であり(JAMA Intern Med. 2018)、それ以上の目覚ましい改善は見られていない。微小循環障害の改善ができないことによって引き起こされると考えられる、急性期、慢性期の合併症の予防は、現在も解決できておらず、この問題が急性心筋梗塞のさらなる死亡率の改善を阻んでいるのではないかと考えられている。

厳格な降圧でも認知症の増加はない(解説:桑島巖氏)-1004

厳格な降圧は認知症と関連するという懸念が一部にあったが、本試験の結果はそれを否定する科学的根拠を示した大規模臨床試験として貴重である。降圧目標値の120mmHgが従来目標の140mmHgに比して心血管イベント抑制効果が高いことを示した有名な米国SPRINT試験のサブ試験である。当初から認知症疑い(probable dementia)をエンドポイントに設定して施行したprospective studyであり、信頼性は高い。