高齢者の多枝冠動脈疾患を伴う急性心筋梗塞の冠動脈完全血行再建の有用性は?(解説:青木二郎氏)
多枝冠動脈疾患を伴う急性心筋梗塞の冠動脈血行再建の責任病変以外の病変に対して、血行再建を行い、完全血行再建を目指すかについては、多くの無作為化比較試験が以前より行われてきた。PRAMI、DANAMI-3-PRIMULTI、COMPARE-ACUTE、COMPLETEといった試験では、非責任病変の有意狭窄病変にも血行再建を行うことにより、完全血行再建を行うほうが責任病変のみを治療するよりも、臨床イベントの発生が少なく望ましいと報告されてきた。しかし、今までの臨床試験では4,041例を登録したCOMPLETE試験でも平均年齢は62歳であり、高齢者でも同様の結果が得られるのかに重きを置いた臨床研究はなかった。今回のFIRE試験では、75歳以上の高齢者でも同様に完全血行再建を行うほうが、予後がいいことが初めて報告された。
FIRE試験では注目すべき点が他にもある。まず初めに、今までの臨床試験はSTEMIを主に対象としておりNSTEMIのエビデンスは乏しかったが、FIRE試験ではNSTEMI患者が約65%と半分以上登録された。サブ解析ではNSTEMI群のほうがSTEMI群より、完全血行再建を行ったほうがより臨床結果が良く、NSTEMI・STEMIに関係なく完全血行再建が望ましいと考えられる。
次に、非責任病変の評価法についても今までいろいろな議論がなされてきた。FLOWER-MI試験では、非責任病変の血管造影の狭窄度の評価(50%以上)と冠血流予備量比(FFR)0.8以下とで比較したが、臨床的な有意差が出なかった。FIRE試験は、非責任病変の評価に血管造影だけではなく、FFRに加えて安時指標(resting index)や血管造影結果から血流予備能を計測するQFRも用いられた初めての無作為化試験であることも注目される。急性期のFFRやresting indexは慢性期と異なるという報告も散見される。今後、非責任病変の評価に何が最適なのかを評価するために、5,100例を登録目標とした大規模無作為化試験であるCOMPLETE-2試験の登録が行われており、結果が待たれている。
最後に、完全血行再建をするほうが望ましいが、いつ非責任病変の血行再建を行ったらいいか、という問題もいまだ解決されていない。同時に治療したほうがいいのか、退院前なのか、退院後なのか? FIRE試験では同時治療が約60%であった。BIOVASC試験では同時が望ましいという結果であったが、今後のさらなる臨床試験の解析が待たれている。