医療一般|page:87

静脈血栓塞栓症での長期投与の安全性、DOAC vs.ワルファリン

 静脈血栓塞栓症(VTE)に対する経口抗凝固薬の投与期間は、海外では初回3~6ヵ月の治療期間からの延長が推奨される場合があるが、直接経口抗凝固薬(DOAC)またはワルファリンの臨床アウトカムの違いは明らかにされていない。そこで、米国・カルフォルニア大学のMargaret C. Fang氏らが急性VTE患者を対象にDOACまたはワルファリンの抗凝固療法の6ヵ月以上の延長による「VTEの再発」「出血による入院」および「全死因死亡の割合」への影響を比較した。その結果、DOAC治療はVTEの再発リスク低下と関連し、臨床アウトカムの観点からVTEの長期治療にDOACの使用を支持すると報告した。JAMA Network Open誌2023年8月1日号掲載の報告。

ワクチン接種者でCOVID-19が重症化しにくいのはなぜか

 周知のように、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン(以下、新型コロナワクチン)を接種することで、感染リスクがなくなるわけではないが感染後の重症化リスクは低下する。しかし、それはなぜなのか。その理由の解明につながる研究結果を、米コロラド大学コロラド公衆衛生大学院のAlison Abraham氏らが、「The Lancet Microbe」に8月7日発表した。この研究によると、COVID-19罹患者のうち、ワクチン接種を受けていた人では未接種の人に比べて、炎症マーカーの値が低かったことが示されたという。

パーソナルケア製品、男性ではこの20年で使用が倍増

 米国成人は、シャンプーやデオドラントなどの自分の身体をケアするための製品(パーソナルケア製品)を1日に平均で12種類使用していることが、米環境ワーキンググループ(Environmental Working Group;EWG)のHomer Swei氏らが7月26日に公表した新たな調査で明らかにされた。これらの12製品には、合計で112種類の化学成分が含まれており、その一部は健康にとって有害な可能性も示されたという。  パーソナルケア製品の使用に関するこの調査は2023年2月に実施され、2,207人の米国成人(男女のカテゴリーからの選択で、女性1,128人、男性1,073人)から回答が得られた。その結果、男性では、パーソナルケア製品の毎日の使用が、前回調査時(2004年)の平均6種類の使用から今回の調査での平均11種類の使用へと倍増していたことが示された。11種類の製品の内訳は、ボディーケア製品が6種類、スキンケア製品と化粧品が1種類ずつ、ヘアケア製品が2種類で、残る1種類はベビーケア製品(お尻ふき)だった。これに対して、女性では前回の調査時が平均12種類の使用だったのが、今回の調査では平均13種類の使用であり、大きな変化は見られなかった。また、約10%の人は、化粧品、シャンプー、保湿剤、デオドラント、石鹸など25種類以上の製品を毎日使用している、いわゆる「ヘビーユーザー」であることも判明した。

アルツハイマー病関連遺伝子の保有者では認知機能に先立ち嗅覚が低下か

 アルツハイマー病に関連するApoE遺伝子のε4アレル(ApoE ε4)を保有する人は、記憶や思考に問題が生じるはるか前に嗅覚が低下している可能性のあることが、米シカゴ大学のMatthew GoodSmith氏らによる研究で示唆された。GoodSmith氏は、「においを感知する能力の検査が、後年になって認知機能に生じる問題を予測する上で有用な可能性がある」と述べている。研究の詳細は、「Neurology」に7月26日掲載された。  ApoEはアミロイドβの蓄積や凝集に関わるタンパク質である。ApoEには、3つの主要なアイソフォーム(ApoE2、ApoE3、ApoE4)が存在し、それぞれ、ε2、ε3、ε4の3種類のアレルによりコードされている。ε4アレルを保有する人ではアルツハイマー病発症のリスクが大幅に上昇することが知られている。

JAK阻害薬ルキソリチニブ、造血幹細胞移植後のGVHDに承認取得/ノバルティス

 ノバルティス ファーマは2023年8月23日、JAK阻害薬ルキソリチニブ(商品名:ジャカビ)について、「造血幹細胞移植後の移植片対宿主病(ステロイド剤の投与で効果不十分な場合)」の効能又は効果の追加承認を取得した。  移植片対宿主病(GVHD)は、同種造血幹細胞移植で多く認められる移植合併症である。ドナー由来の免疫細胞が、移植を受けた宿主の正常な組織を攻撃することにより引き起こされる。GVHDは急性GVHDと慢性GVHDに分けられる。

アルツハイマー病治療薬レカネマブ、厚労省専門部会が薬事承認を了承/エーザイ・バイオジェン

 2023年8月21日、lecanemab(一般名:レカネマブ、商品名:レケンビ点滴静注200mg/同500mg、以下「レカネマブ」)は、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会において製造販売承認が了承された。今回の了承に際して、エーザイとBiogen(米国)は共同ステートメントを発表し、「厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会において、レカネマブの早期アルツハイマー病治療薬としての製造販売承認が了承されたことは、わが国のアルツハイマー病治療における大きな前進であると受け止めている」とした。

飲酒で発症リスクが上がるがん、下がるがん~女性80万人の前向き研究

 アルコール摂取は一部のがん発症リスクの増加や減少に関連していると考えられている。今回、英国・オックスフォード大学のSarah Floud氏らが、前向き研究であるUK Million Women Studyで調査したところ、アルコール摂取量が増えると、上部気道・消化管がん、乳がん、大腸がん、膵臓がんのリスクが増加し、甲状腺がん、非ホジキンリンパ腫、腎細胞がん、多発性骨髄腫のリスクが低下する可能性が示された。また、この関連は、上部気道・消化器がんを除いて、喫煙、BMI、更年期ホルモン療法による変化はなかった。BMC Cancer誌2023年8月16日号に掲載。

日本人の双極性障害および統合失調症に関連するミトコンドリアの遺伝的変異

 双極性障害や統合失調症は、複雑な精神疾患であり、環境的要因と遺伝的要因(母性遺伝を含む)の両方が影響している可能性がある。これまで、いくつかの研究において、ミトコンドリア染色体の遺伝子変異と双極性障害および統合失調症との関連が調査されているが、研究結果は同一ではなく、参加者は欧州の患者に限定されていた。岐阜大学のRyobu Tachi氏らは、日本人集団におけるミトコンドリア染色体のゲノムワイドな遺伝的変異と双極性障害、統合失調症、精神疾患との関連を調査した。International Journal of Bipolar Disorders誌2023年7月21日号の報告。

新型コロナなど呼吸器系ウイルスの重複感染率はどの程度か

 米国で、2022年後半に実施された2万6,000件以上の呼吸器系ウイルスの検査結果を調べたところ、陽性結果の1%以上で新型コロナウイルス、インフルエンザウイルス、RS(呼吸器合胞体)ウイルスの重複感染が認められたとする研究結果が報告された。重複感染は、21歳以下の若年者の間で多く認められたという。米クエスト・ダイアグノスティックス社のテクニカルディレクターを務めるGeorge Pratt氏らによるこの研究結果は、米国臨床化学会年次総会(2023 AACC、7月23〜27日、米アナハイム)で発表された。

家庭での血圧測定はCVDの発症抑制や医療費削減につながる

 家庭用血圧計による血圧測定は、長期的には人種や民族に関わりなく脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患(CVD)の発症を抑制し、医療費削減につながることが、上海交通大学(中国)医学部公衆衛生学分野教授のYan Li氏らによる研究で示された。Li氏は、「家庭での血圧モニタリングにより、早期発見、適時の介入、合併症の予防が容易になり、血圧コントロールの改善と健康転帰の改善につながる」と話している。詳細は、「American Journal of Preventive Medicine」に5月12日掲載された。  今回の研究でLi氏らは、まず米国で実施された電話調査である行動リスク因子サーベイランスシステム(Behavioral Risk Factor Surveillance System;BRFSS)の2019年のデータと、公表されている文献データを用いて、高血圧を持つ米国成人の健康および人口統計学的特性を抽出し、CVDのマイクロシミュレーションモデルで使用するパラメーターを推定した。その上で、このモデルにより、家庭用血圧計によるモニタリングが、心筋梗塞や脳卒中の発症と医療費削減に与える長期的な影響を、通常の血圧に対するケア(診療所での血圧モニタリング)との比較で検討した。

HER2変異陽性非小細胞肺がんにトラスツズマブ デルクステカンが国内承認/第一三共

 第一三共は2023年8月23日、抗HER2抗体薬物複合体(ADC)トラスツズマブ デルクステカンが、日本において、「がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」の効能又は効果に係る製造販売承認事項一部変更承認を取得したと発表した。  同適応は、グローバル第II相臨床試験(DESTINY-Lung02)の結果に基づき、2022年12月に日本における製造販売承認事項一部変更承認申請を行い、優先審査のもとで承認された。

間質性肺疾患の急性増悪、ニンテダニブの新規投与は有効か?

 『特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)』では「特発性肺線維症(IPF)急性増悪患者に抗線維化薬を新たに投与することは推奨されるか?」というクリニカルクエスチョン(CQ)が設定されており、推奨は「IPF急性増悪患者に対して抗線維化薬を新たに投与しないことを提案する(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:D[非常に低])」となっている。このような推奨の理由として、抗線維化薬であるニンテダニブ、ピルフェニドンをIPF急性増悪時に新たに投与する場合の有効性が明らかになっていないことがある。とくにニンテダニブについては、後ろ向き研究を含めて症例報告以外に報告がない1)。そこで、順天堂大学医学部医学研究科の加藤 元康氏らの研究グループは、「間質性肺疾患(ILD)の急性増悪発症後にニンテダニブ投与が行われた症例のニンテダニブの有効性と安全性を確認する後方視的検討」という研究を実施した。その結果、ニンテダニブは90日死亡率と急性増悪の再発までの期間を改善した。本研究結果は、Scientific Reports誌オンライン版2023年8月2日号で報告された。

高血圧への第1選択としての利尿薬vs.他の降圧薬~コクランレビュー

高血圧患者における死亡率、心血管イベントの発生率、有害事象による中止率などについて、第1選択薬としてのサイアザイド系利尿薬と他のクラスの降圧薬を比較したシステマティックレビューの結果を、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のMarcia Reinhart氏らがThe Cochrane Database of Systematic Reviews誌2023年7月13日号に報告した。  2021年3月までのCochrane Hypertension Specialized Register、CENTRAL、MEDLINE、Embase、および臨床試験登録が検索された。対象は1年以上の無作為化比較試験で、第1選択薬としての利尿薬と他の降圧薬の比較、および死亡率とその他のアウトカム(重篤な有害事象、総心血管系イベント、脳卒中、冠動脈性心疾患[CHD]、うっ血性心不全、有害作用による中止)が明確に定義されているものとした。

若者のうつ病・不安症、未治療での1年後の回復率~メタ解析

 抑うつ症状や不安症状を有する若者に対し、特別なメンタルヘルス介入を行わなかった場合の1年後の回復率は、どの程度か。英国・ロンドン大学クイーンメアリー校のAnna Roach氏らは、システマティックレビューおよびメタ解析を実施し、これを明らかにしようと試みた。その結果、不安や抑うつ症状を有する若者の約54%は、特別なメンタルヘルス介入を行わなくても回復することが示唆された。BMJ Open誌2023年7月21日号の報告。  1980年~2022年8月に公表された論文をMEDLINE、Embase、PsycINFO、Web of Science、Global Healthよりシステマティックに検索した。特別な介入を行わなかった10~24歳の若者を対象に、ベースラインおよびフォローアップ1年後の抑うつ症状および不安症状を評価した査読済みの英語論文を対象とした。3人のレビュアーにより関連データを抽出した。メタ解析を実施し、1年後の回復率を算出した。エビデンスの質は、Newcastle-Ottawa Scaleを用いて評価した。

ChatGPTが有用な術後指導を提供する可能性

 ChatGPTにより、ヘルスリテラシーが低い小児耳鼻咽喉科患者家族に対し、有用な術後指導を提供することができるとの研究報告が、「JAMA Otolaryngology-Head & Neck Surgery」に4月27日掲載された。  米スタンフォード大学医学部のNoel F. Ayoub氏らは、患者の知識を深め、教育/ヘルスリテラシーレベルが低い集団で使用する術後指示書を作成する上でのChatGPTの価値を、Google検索および大学施設と比較して評価した。解析は、小児耳鼻咽喉科で一般的に行われる8つの手術に関する患者への術後指示を対象に実施した。

毎日の運動でも週末だけの運動でも心臓への影響は同じ

 毎日運動するのも週末にまとめて運動するのも、心臓への影響は変わらないようだ。米マサチューセッツ総合病院(MGH)のShaan Khurshid氏らが実施した研究で、「中強度〜高強度の運動(moderate to vigorous physical activity;MVPA)を週150分以上」というガイドラインの推奨を満たしていれば、どのようなスケジュールで運動を行っても、心臓に同様のベネフィットがもたらされることが明らかになった。この研究の詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」7月18日号に掲載された。  この研究では、UKバイオバンクのデータを用いて、ガイドラインで推奨されている運動量を短期間で集中的に行う場合と、より均等に(定期的に)行う場合とで、心血管イベント(心房細動、心筋梗塞、心不全、脳卒中)の発生リスクに違いがあるのかどうかが調査された。対象は、2013年6月8日から2015年12月30日までの間に加速度計で測定した1週間の運動量のデータがそろっていた8万9,573人(平均年齢62歳、女性56%)。このうちの42.2%(3万7,872人)は週150分以上のMVPAの50%以上を1〜2日で消化する「週末戦士(weekend warrior;WW)」(WW群)、24.0%(2万1,473人)はWWよりも定期的な運動習慣で推奨運動量を満たしていた(定期的な運動群)。残りの33.7%(3万228人)はガイドラインでの推奨運動量を満たしていなかった(推奨量未達成群)。追跡期間中央値は6.3年だった。

外来・入院・集中治療別マネジメントを記載、COVID-19診療の手引き第10.0版/厚労省

 厚生労働省は8月21日、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第10.0版」を公開し、全国の自治体や関係機関に通知した。2023年2月に公開された第9.0版以来、5類移行後初めての改訂となる本版は、オミクロン株に置き換わって以降の国内外の知見が反映され、よりコンパクトな内容になっている。とくに外来診療にも役立てられるよう、第4章では、前版までは重症度別に記載されていたマネジメントが、「外来診療」「入院診療」「集中治療」別にまとめなおされている。また、本手引きを基に作成された「COVID-19 外来診療の基礎知識」の表も公開された。

筋トレは方法次第で1日3秒、週3日で効果あり!?

 「筋力トレーニングはつらいので嫌い」という人は、少なくないだろう。しかし1日3秒、週3日で効果があるとしたらどうだろうか。新潟医療福祉大学とオーストラリア・Edith Cowan Universityの研究グループは、1日3秒、週3日の全力の伸張性収縮(重りをゆっくりと降ろすなどの運動)を4週間実施することで、筋力が増加することを明らかにした。本研究結果は、吉田 麗玖氏(間庭整形外科医院)らによってEuropean Journal of Applied Physiology誌オンライン版2023年7月28日号で報告された。  健康な大学生26人を対象として、全力の伸張性収縮を1日3秒、週2日実施する群(週2日群)と1日3秒、週3日実施する群(週3日群)に均等に割り付け、4週間のトレーニングを実施した。4週間のトレーニング前後における短縮性収縮、等尺性収縮、伸張性収縮時の随時最大筋力の変化を群間比較した。また、上腕二頭筋、上腕筋の筋厚の変化も比較した。これらの結果は、先行研究において1日3秒、週5日のトレーニングを4週間実施した群(週5日群)とも比較した。

統合失調症に対する長時間作用型注射剤抗精神病薬の実際の有効性

 フランス・エクス=マルセイユ大学のLaurent Boyer氏らは、統合失調症に対する長時間作用型注射剤(LAI)抗精神病薬の実臨床における有効性を評価するため、ミラーイメージ研究を実施した。その結果、LAI抗精神病薬は、経口抗精神病薬よりも投与頻度が少ないため、コンプライアンス向上や再発リスク軽減が期待できるため、コンプライアンス不良患者では女性や35歳以上の患者であってもLAI抗精神病薬治療が推奨されることを報告した。また、アリピプラゾールLAIは、コンプライアンス良好患者にとって有用な薬剤である可能性があり、さらなる調査が求められるとしている。Molecular Psychiatry誌オンライン版2023年7月21日号の報告。

鼻腔内インスリン投与で認知機能改善?

 鼻腔内へのインスリン投与が、アルツハイマー病(AD)や軽度認知障害(MCI)患者の認知機能に対して保護的に働くことが、メタ解析の結果として示された。一方、認知機能低下の見られない対象では、有意な影響は認められないという。トロント大学(カナダ)のSally Wu氏らの研究によるもので、詳細は「PLOS ONE」に6月28日掲載された。  鼻腔内へのインスリン投与(intranasal Insulin;INI)は、末梢でのインスリン作用発現に伴う副作用リスクを抑制しつつ、脳内のインスリンシグナル伝達を改善し、認知機能に対して保護的に働くと考えられている。これまでに、INIによる認知機能への影響を調べた研究結果が複数報告されてきている。ただしそれらの結果に一貫性が見られない。Wu氏らは、このトピックに関するシステマティックレビューとメタ解析により、この点を検討した。