医療一般|page:64

日本人高齢者における抗コリン薬使用と認知症リスク~LIFE研究

 抗コリン薬が認知機能障害を引き起こすことを調査した研究は、いくつか報告されている。しかし、日本の超高齢社会において、認知症リスクと抗コリン薬の関連は十分に研究されていない。大阪大学のYuki Okita氏らは、日本の高齢者における抗コリン薬と認知症リスクとの関連を評価するため本研究を実施した。International Journal of Geriatric Psychiatry誌2023年12月号の報告。  2014~20年の日本のレセプトデータを含むLIFE研究(Longevity Improvement & Fair Evidence Study)のデータを用いて、ネステッドケースコントロール研究を実施した。対象は、認知症患者6万6,478例および、年齢、性別、市区町村、コホート登録年がマッチした65歳以上の対照群32万8,919例。1次曝露は、コホート登録日からイベント発生日またはそれに一致したインデックス日までに処方された抗コリン薬の累計用量(患者ごとの標準化された1日当たりの抗コリン薬総投与量)であり、各処方の抗コリン薬各種の総用量を加算し、WHOが定義した1日の用量値で除算して割り出した。抗コリン薬の累計曝露に関連する認知症のオッズ比(OR)の算出には、交絡変数で調整した条件付きロジスティック回帰を用いた。

黒砂糖、がん発症を抑制か~J-MICC研究

 黒砂糖にはミネラル、ポリフェノール、ポリコサノールが多く含まれているが、黒砂糖が健康に役立つと評価した疫学研究はほとんどない。今回、鹿児島大学の宮本 楓氏らが、長寿者の割合が比較的高く黒砂糖をおやつにしている奄美群島の住民を対象としたコホート研究を実施したところ、黒砂糖摂取ががん全体、胃がん、乳がんの発症リスク低下と関連することが示された。Asia Pacific Journal of Clinical Nutrition誌2023月12月号に掲載。

組み換え帯状疱疹ワクチン、接種回数別の4年後の効果

 組み換え帯状疱疹ワクチン(商品名:シングリックス)の2回接種は、臨床試験において有効率97%と非常に高い有効性を示しているが、実臨床における長期有効性は明らかになっていない。そこで、米国・Kaiser Permanente Northern CaliforniaのOusseny Zerbo氏らは、組み換え帯状疱疹ワクチンの実臨床における効果を調べた。その結果、1回接種の場合は有効性が1年後に低下したが、2回接種の場合は4年間の追跡期間において有効性が低下しなかった。本研究結果は、Annals of Internal Medicine誌オンライン版2024年1月9日号で報告された。

宴席などの誘いを断っても、相手は気にしていない

 年末年始は何かとイベントの誘いが増える。中にはあまり気の乗らないイベントがあるかもしれない。そのような時、「せっかく誘ってくれたのに断ったら、相手は嫌な思いをするのではないだろうか」と心配し、断り切れずに参加してしまうということがないだろうか。しかし、新たに発表された研究報告によると、そのような心配はあまり必要ないことが明らかになった。人々は一般的に、他人の誘いを断ることによる相手の心情への影響を気にしすぎる傾向があるという。  この研究は、米ウェストバージニア大学のJulian Givi氏と米ニューヨーク工科大学のColleen P. Kirk氏によるもので、詳細は「Journal of Personality and Social Psychology」に12月11日掲載された。調査によると、4人に3人以上(77%)は、イベントに誘われた際に参加を辞退した場合の影響を懸念して、参加したくない誘いへの招待に応じた経験があるとのことだ。

脂の多い魚の摂取はCVDリスクを低下させる

 心血管疾患(CVD)の家族歴のある人は、サケ、サバ、ニシン、イワシなどの脂肪の多い魚の摂取を増やすと良いようだ。CVDの家族歴がありオメガ3脂肪酸のEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)の血中濃度が低い人では、CVDの家族歴がなくEPA/DHAの血中濃度も低くない人に比べて、CVDのリスクが40%以上高いことが新たな研究で明らかになった。一方、EPA/DHAの血中濃度が十分であれば、CVDの家族歴があってもリスクは25%の増加にとどまることも示されたという。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のKarin Leander氏らによるこの研究の詳細は、「Circulation」に12月4日掲載された。

医療者の燃え尽き、カギはトレーニングよりも看護師人数

新型コロナウイルス感染症流行下では、世界中で多くの医療者が燃え尽き症候群に直面し、多くの離職者が出た。そして、日本では2024年4月から医師の働き方改革がスタートし、時間外労働への規制が厳しくなる。この状況において、パンデミックの経験から学ぶべきことは何か。 米国ペンシルベニア大学のLinda H. Aiken氏らは、医師と看護師の健康状態と離職率を測定し、有害な転帰、患者の安全性、介入に対する好みと関連する実行可能な要因を特定することを目的とした調査を行った。

幹細胞治療が進行性心不全患者のQOLを改善

 進行した心不全患者には幹細胞治療が有効であることが、臨床試験で明らかになった。損傷した心臓組織を修復するようにプログラムされた幹細胞の注入を受けた患者では、シャム治療を受けた患者と比べて全体的な生活の質(QOL)が改善することが示されたのだ。米メイヨークリニックの循環器専門医である山田さつき氏らによるこの研究の詳細は、「Stem Cell Translational Medicine」に11月24日掲載された。  心筋梗塞後に心不全が生じる例は珍しくない。これは、心筋が損傷を受けることで心臓から全身に血液を送り出す力が弱まるためだと研究グループは説明する。心不全患者の多くには、息切れ、疲労、足のむくみなどの症状が現れる。病状が進行すると、日常生活が制限され、QOLが低下する。論文の上席著者である、メイヨークリニック再生医療センター長のAndre Terzic氏は、「心不全は急増しつつある疾患で、新規の治療法の開発が必要だ」と同クリニックのニュースリリースで述べている。

エムポックスワクチン、5分の1の投与量でも有効

 コンゴ民主共和国では2023年に入って以来、エムポックス(サル痘)の感染例が例年より大幅に多く、すでに何百人もの人が死亡している。こうした中、米ニューヨーク大学(NYU)の研究グループが、エムポックスワクチン(Jynneos)の5分の1の量を皮内接種することでも十分な感染予防効果が得られるとする研究結果を報告した。筆頭著者であるNYUグロスマン医学部の感染症専門医であるAngelica C. Kottkamp氏は、「ワクチン不足に直面した際の緊急措置として少量のワクチンを投与することの有効性が確認された」と述べている。この研究結果は、「The New England Journal of Medicine(NEJM)」12月14日号に掲載された。

歩く速さが糖尿病リスクと相関

 歩行速度が速い人ほど糖尿病リスクが低いという関連性を示す研究結果が報告された。セムナン医科大学(イラン)のAhmad Jayedi氏らが行ったシステマティックレビューの結果であり、詳細は「British Journal of Sports Medicine」に11月28日掲載された。  この研究では、PubMed、Scopus、CENTRAL、Web of Scienceなどの文献データベースに2023年5月30日までに収載された論文から、成人の歩行速度と2型糖尿病のリスクとの関連を調査した研究を検索。米国、英国、日本で行われた計10件のコホート研究が特定された。それらの研究参加者は合計50万8,121人で、観察期間は3~11年だった。

米国成人の1.3%が慢性疲労症候群に罹患

 米国立保健統計センター(NCHS)によるデータ分析から、米国では2021〜2022年に成人の1.3%が筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に罹患していることが示された。詳細は、「NCHS Data Brief」12月号に発表された。  ME/CFSは、年齢や性別、人種/民族にかかわりなく生じる、複雑で多系統に影響が及ぶ疾患。通常、休息によっても改善されない重度の疲労が6カ月以上続くほか、患者の多くは、運動や仕事などの活動後に悪化する痛み、ブレインフォグなどさまざまな症状を訴える。関連研究では、ME/CFSは感染症やその他の免疫系への衝撃に対する身体の長期にわたる過剰反応であることが示唆されている。しかし現状では、ME/CFSを確定診断するための検査法はなく、治療薬や治療ガイドラインもない。米ミシガン大学慢性疼痛・疲労研究センター所長のDaniel Clauw氏は、「ME/CFSと診断されるのはほんの一部の患者に過ぎないというのが専門家の考えだ。そのため、実際の有病率はこれよりも高い可能性がある」と語る。

統合失調症の神経認知プロファイルに対するアリピプラゾールとオランザピンの有効性比較

 統合失調症は、重篤な神経認知障害を引き起こす疾患である。統合失調症に対する抗精神病薬治療は、精神病理および神経認知機能の改善をもたらすことが期待される。インド・Government Medical College and HospitalのSanya Sharma氏らは、統合失調症患者の神経認知プロファイルに対するアリピプラゾールとオランザピンの有効性を比較するため、プロスペクティブ介入比較研究を行った。その結果、アリピプラゾールとオランザピンは、神経認知プロファイルの改善に有効であり、それぞれ特定の領域に対してより有効であることが示唆された。Indian Journal of Psychiatry誌オンライン版2023年10月号の報告。

乳がん脳転移例、全脳照射前のBEEPで脳特異的PFS改善

 脳転移を有する乳がん患者において、ERBB2(HER2)サブタイプにかかわらず、ベバシズマブ+エトポシド+シスプラチン(BEEP)導入療法を行ってから放射線の全脳照射を行った場合、全脳照射のみの場合よりも脳特異的無増悪生存期間(PFS)が有意に改善したことを、国立台湾大学病院のTom Wei-Wu Chen氏らが明らかにした。JAMA Oncology誌オンライン版2023年12月21日号掲載の報告。  近年、乳がんに対する薬物療法は目覚ましい進歩を遂げており、術後再発や遠隔転移のコントロールが良好になっている。しかし、脳転移に奏効する薬剤は乏しく、治療の評価は確立していない。そこで研究グループは、BEEP導入療法を追加することで、全脳照射後の脳特異的PFSが改善するかどうかを検討するため、多施設共同無作為化非盲検試験を実施した。

脳内のセロトニンがアルツハイマー病の発症に関係か

 脳の「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニンが、加齢に伴う脳機能の低下に関係している可能性のあることが、米ジョンズ・ホプキンス大学精神医学・行動科学教授のGwenn Smith氏らの研究によって明らかになった。軽度認知障害(MCI)がある人では健康な人と比べて、記憶や問題解決、情動に関連する重要な脳領域におけるセロトニントランスポーター(5-HTT、セロトニンの濃度調節に関わるタンパク質)の量が少ないことが示された。また、MCIの患者では、アルツハイマー病患者の脳内で有害なタンパク質の塊を形成するアミロイドβ(Aβ)の量が多いことも分かった。研究の詳細は、「Journal of Alzheimer’s Disease」10月24日号に掲載された。

チャットGPTとの連携で医師の診断精度は向上する?

 医師は優れた意思決定者であるが、それでも、チャットGPTの確率に基づく推論を考慮することが診断に大いに役立つ可能性のあることが、新たな研究で示唆された。米ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのAdam Rodman氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に12月11日掲載された。  Rodman氏は同センターのニュースリリースで、「人間は確率的推論、つまり確率を計算した上で決断を下すことに苦労している。確率的推論は診断を下す際に不可欠な要素の一つであるが、そのプロセスはさまざまな認知的戦略を必要とし、極めて複雑だ。その一方で、確率的推論は人間がサポートを利用できる領域でもある。それゆえ、われわれは確率的推論を単独で評価することにした」と研究背景を説明する。

現行のHbA1c糖尿病判定値は閉経前女性にとって高すぎる可能性

 性差が考慮されていない現在のHbA1cの糖尿病判定値は、閉経前女性には高すぎる可能性を示すデータが報告された。仮に性特異的なカットオフ値を適用したとすると、50歳未満の女性糖尿病患者が17%増加する可能性があるという。英国の臨床検査関連企業であるBenchmarking Partnership社のDavid Holland氏らの研究によるもので、第59回欧州糖尿病学会(EASD2023、10月2~6日、ドイツ・ハンブルク)で発表されるとともに、「Diabetes Therapy」に9月30日掲載された。  耐糖能の評価や糖尿病の診断には経口ブドウ糖負荷試験が行われるが、血糖コントロールの指標であるHbA1cも糖尿病の判定ツールとして利用されている。そのHbA1cは溶血や失血、鉄欠乏性貧血からの回復期などの赤血球寿命が短縮する状態において、低値となりやすい。閉経前女性は同年代の男性よりHbA1cが低いことが報告されているが、これには月経による鉄欠乏の反復のためにHbA1cが低値となっている女性が一定数存在していることの影響も考えられる。一方、女性糖尿病患者の診断時年齢は平均すると男性よりも高齢である反面、死亡率は男性よりも高い。この事実に、糖尿病の診断の遅れが関与している可能性がある。

デキサメタゾン製剤、アセタゾラミドなどに「重大な副作用」追加/厚労省

 厚生労働省は1月10日、アセタゾラミドやデキサメタゾン製剤などの添付文書について、使用上の注意改訂指示を発出した。炭酸脱水酵素阻害薬のアセタゾラミド、アセタゾラミドナトリウム(商品名:ダイアモックス)には重大な副作用として「急性呼吸窮迫症候群、肺水腫」が、デキサメタゾン製剤(経口剤および注射剤)や副腎皮質ホルモン製剤(経口剤および注射剤)のうちリンパ系腫瘍の効能を有する製剤には重大な副作用として「腫瘍崩壊症候群」が追加された。  急性呼吸窮迫症候群および肺水腫関連の症例を評価した結果、アセタゾラミド、アセタゾラミドナトリウムと急性呼吸窮迫症候群および肺水腫との因果関係が否定できない症例(国内11例のうち9例、海外6例のうち4例。死亡例は国内3例、海外1例)が集積したため。

尿が黄色くなるメカニズムが明らかに

 尿中の黄色色素としてウロビリンが同定されているが、この発見から125年以上の間、ウロビリンの産生に関与する酵素は不明とされていた。しかし、米国・メリーランド大学のBrantley Hall氏らの研究グループが腸内細菌叢由来のビリルビン還元酵素(BilR)を同定し、この分子がビリルビンをウロビリノーゲンに還元し、ウロビリノーゲンが自然に分解されることで尿中の黄色色素ウロビリンが産生されることを明らかにした。また、BilRは健康成人ではほぼ全員に存在していたが、新生児・乳児や炎症性腸疾患(IBD)患者で欠損が多く認められた。本研究結果は、Nature Microbiology誌2024年1月3日号で報告された。

炎症性乳がんへのNAC、1ラインvs.2~3ラインで転帰の差は

 多くのStageIII炎症性乳がん患者は、第1選択治療として術前化学療法(NAC)を受け、十分な反応を示し手術可能となるが、追加のNACが必要となるケースもある。米国・ハーバード大学医学大学院のFaina Nakhlis氏らは、1ラインvs.2~3ラインのNACを受けた患者における臨床転帰を評価した。Breast Cancer Research and Treatment誌オンライン版2023年12月28日号への報告。  2施設において、1ラインまたは2~3ラインのNACを受けたStageIII炎症性乳がん患者が特定された。ホルモン受容体とHER2の状態、グレード、および病理学的完全奏効(pCR)が評価され、乳がんのない生存期間(BCFS)および全生存期間(OS)はKaplan-Meier法により評価された。多変数Coxモデルを用いてハザード比(HR)が推定された。

双極性障害患者の原因別死亡率と併存する神経発達障害

 双極性障害患者の早期死亡に関するこれまで研究は、サンプルサイズが小さいため、限界があった。台湾・長庚記念病院のWei-Min Cho氏らは、台湾の人口の約99%を対象に、双極性障害患者の早期死亡および併存する神経発達障害、重度の双極性障害との関係を調査した。その結果、精神科入院頻度の高い双極性障害患者は、自殺死亡リスクが最も高く、自閉スペクトラム症の併存は自然死や偶発的な死亡のリスク増加と関連していることが示唆された。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2023年12月6日号の報告。