がん化学療法後の認知機能障害は患者のQOLに悪影響を及ぼす。多くの横断的前向き試験が、神経心理学的ながん治療後の認知変化について述べている。しかしながら、決定的な知見はまだない。この試験は最新の神経学的イメージングシステムを用い、乳がん治療後の認知愁訴と脳活性度の変化の関連を検討している。ベルギーのルーヴェン・カトリック大学Sabine Deprez氏らの前向き比較試験。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2014年5月27日号の掲載報告。
18例の化学療法施行乳がん患者について、化学療法施行前(t1)と施行後4~6ヵ月後(t2)に機能的MRI(fMRI)のスキャナー内でのマルチタスク検査を実施した。一方、コントロールグループとして化学療法非施行乳がん患者16例、健康成人17例で同様の検査を同じ間隔で実施している。ベースラインにおいて、3つのグループは同等である。トレーニングにより70~80%の正しい反応を得られるようにして参加者間の格差をコントロールして前向き試験を実施した。認知愁訴については、Cognitive Failure Questionnaire(CFQ)を用いて評価した。神経学的イメージングは、統計的パラメトリックマッピング(SPM8ソフトウェア)を用い、グループ内、グループ間、時間・グループ交互作用を分析した。
主な結果は以下のとおり
・化学療法実施グループの認知愁訴は、化学療法施行前(t1)に比べ施行4~6ヵ月後(t2)で有意に増加した(p<0.05)。
・他の2グループでは、同様の変化はみられなかった。
・化学療法実施グループの脳活性度は、左前帯状回と頭頂間溝において、t1に比べt2で有意に低下した(p<0.05)。
・他の2グループでは同様の変化はみられなかった。
・化学療法実施グループと健康成人グループにおいて、左前帯状回の活性で有意な、時間・グループ交互作用がみられた(p<0.05)。
この試験の結果から、化学療法由来の認知愁訴の根底に脳活性度の変化があると示唆される。左前帯状回と頭頂間溝はマルチタスク作業時には活性化する部位であり、この変化は、化学療法が与える脳のダメージ、あるいは脳の区域間連携の低下に関連している可能性がある。
今後、追加試験により脳の活性度についての再現性を確認するとともに、大規模な試験により詳細なサブグループ解析を行う必要があるだろう。この試験は、化学療法後の認知愁訴の長期的変化と活性度の変化の関連についてのエビデンスを与えた最初の長期的試験であり、がん化学療法の認知機能への影響について、神経学的に理解するうえで重要なステップといえる。
(ケアネット 細田 雅之)