新薬創出国“日本”を取り戻す

提供元:ケアネット

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公開日:2014/07/29

 

 イリノテカンやブレオマイシンなど、日本は世界中で広く投与されている抗がん剤を多く創出してきた。現在、アメリカ、スイスに次ぐ第3位の新薬創出国であり、日本は新薬を創出できる数少ない国として広く認知されている。しかしながら、近年、臨床で多く用いられている分子標的治療薬をみると、日本で創出された薬剤はたった2つしかない。そのため、分子標的治療薬の輸入は輸出を上回り、貿易赤字は拡大傾向にある。新薬創出国“日本”は、一体どこに行ってしまったのだろうか。

 2014年7月17日~19日、福岡市で開催された日本臨床腫瘍学会において、がん研究会 がん化学療法センター 藤田 直也氏が「アカデミア創薬の橋渡し研究における課題」をテーマに、本邦における新薬創出の問題点と打開策について講演した。

 創薬プロセスには、基礎研究から新薬承認までに数十年の長い月日と膨大な研究開発費(1,000億円規模)を要する。さらに、近年、新薬と承認される薬剤が減ってきており、開発成功率が下がってきている。そのため、相対的に1品目当たりの研究開発費が高騰している。しかし、本邦の基礎研究や臨床研究のレベルが下がっているわけではない。基礎研究において、薬の種(シーズ)を発見しても、それを標的にした研究・開発は海外で行われてしまっているのが現状である。

 本邦における新薬創出の問題点は、シーズを臨床研究に結び付けるまでのトランスレーショナルリサーチ(TR)にある。TRとは、シーズからターゲットを見つけ、化合物のスクリーニング、動物モデルでの確認、結晶構造解析、特許取得までの一連の研究開発過程を指す。
 
 藤田氏は、TR研究の大学・研究機関(アカデミア)側の問題点として以下を挙げている。

1)スクリーニングや構造解析、個体レベルでの解析など、複数の部門が共同で研究を行う必要があるが、現時点では共同研究体の構築が不十分である。
2)抗体医薬の毒性試験はサルでのみ行わなければならず、費用が5,000万円ほどかかりコストが高い。
3)出口を見越した特許取得戦略が不足している。

 また、企業側の問題として以下を挙げている。

1)研究開発費絶対額が不足している。
2)リスクを取ることに躊躇している。
3)アカデミアの成果を評価する人材が不足している。
4)ブロックバスターモデルからアンメット・メディカル・ニーズに対応した医薬品開発への転換ができていない。
5)研究開発のクローズ手法からオープン化への転換が遅れている。
6)低分子化合物に偏りがちでバイオ医薬品開発への転換が遅れている。

 ここでは、アカデミアの成果を評価する人材の不足に注目したい。TR研究における日本とアメリカの大きな違いは、創薬ベンチャー企業の存在にある。アメリカでは、創薬ベンチャーがアカデミアと企業の間に入ることで、円滑に開発を進めることができ多くの薬剤を創出している。本邦では、創薬ベンチャー企業が少なく、その起業リスクなどから拡大傾向にないのが現状である。その一方で、経済産業省が推し進めるTLO[Technology Licensing Organization(技術移転機関)]という制度が整いつつある。TLOとは、アカデミアの研究成果を特許化し、それを企業へ技術移転する法人であり、いわばアカデミアと企業をつなぐ「仲介」役として注目されている。

 今後、アカデミア側としてはTLOをうまく活用すること、企業側としてはアカデミアとの初期段階からのマッチング、国内アカデミアへの投資・協同を行うことで、TR研究を円滑に進めることができるのではないだろうか。
 新薬創出国“日本”の復活が期待される。

(ケアネット 岸田有希子)