英国・ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのOlivier J. Wouters氏らは、一般公開されているデータを用い新薬の上市に必要な研究開発投資を推定した。同氏らの検討はこれまでと異なり、解析対象製品が幅広く、公開されている利用可能なデータを反映していること、および基礎とした仮定コスト算出法が違うことだという。その条件を満たした新薬63製剤について調べた結果、研究開発投資額は中央値で約10億ドル、平均値で約13億ドルであったという。直近の研究では、新薬開発の平均費用は3億1,400万~28億ドルと推定され、議論の的となっていた。JAMA誌2020年3月3日号掲載の報告。
2009~18年にFDAで承認された新薬の研究開発費用を解析
研究グループは、新薬の市場導入に必要な研究開発費を推定するため、2009~18年の期間に米国食品医薬品局(FDA)の承認を取得したすべての新薬について、データを解析した。データは、新薬の前臨床および臨床試験の実施に関し、臨床試験の成功率に関する公表データも含め、米国証券取引委員会、Drugs@FDA、ClinicalTrials.govのデータベースから入手した。
主要評価項目は、FDAに承認された新薬の研究開発費用の中央値および平均値で、実質資本コスト率(投資家にとっての必要利益率)を年10.5%として資本化(信頼区間[CI]値はブートストラップ法で算出)して評価した。すべての金額は2018年の米国ドルで報告されていた。
新薬63製剤の研究開発費用、中央値で約10億ドル、平均値で約13億ドルと推定
当該期間中にFDAが承認した新薬および生物学的製剤は355製剤であった。研究開発費用のデータが利用可能であったのは63製剤(18%)で、開発した企業は47社であった。
失敗した試験の費用を会計処理後、新薬の上市に必要な研究開発投資の中央値は9億8,530万ドル(95%CI:6億8,360万~12億2,890万)、平均投資額は基準分析で13億3,590万ドル(10億4,250万~16億3,750万)と推計された。
治療領域(薬剤5種以上の領域)ごとの推計中央値は、神経系薬の7億6,590万ドル(95%CI:3億2,300万~14億7,350万)から、抗悪性腫瘍薬および免疫調整薬の27億7,160万ドル(20億5,180万~53億6,620万)の範囲であった。
データは、より小規模の企業、希少疾病用医薬品、特定の治療領域の製品、画期的新薬、迅速承認薬および2014~18年の期間に承認された製品について、入手しやすかった。解析の結果は、臨床試験の成功率、前臨床試験の支出および資本コストのさまざまな推定値を用いる感度解析で変化した。
著者は研究の限界として、FDAに承認された製剤の多くでデータを利用できなかったこと、企業ごとに研究開発費用に関する報告が一貫していなかったことなどを挙げている。
(医学ライター 吉尾 幸恵)