循環器疾患の予防―10年後を見据えた取り組みとは

提供元:ケアネット

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公開日:2015/04/01

 

 「2025年問題」―皆さんは、この言葉をご存じだろうか? いわゆる「団塊の世代」が2025年に75歳以上の後期高齢者となり、医療経済の負担が大幅に増加する問題である。

 2015年3月17日、都内にて「循環器疾患の予防による健康寿命の延伸」をテーマに、メディアワークショップ(主催:公益財団法人 日本心臓財団)が開催された。本セミナーの演者は山科 章氏(東京医科大学 循環器内科 主任教授)。

健康寿命を縮める原因
 超高齢社会に突入した日本が抱えている問題の1つに「介護・寝たきり」がある。要介護状態となる主な原因は脳卒中をはじめとする循環器疾患、関節疾患および転倒である1)。さらに、脳血管疾患と心疾患を含む循環器疾患は、がんと並んで日本人の主要死因の一角を占めている2)。この現状から、循環器疾患を予防する重要性がさらに増している。

医師法第1条にも規定されている「予防医学」
 山科氏は、健康寿命を延長させるための提案として、まず初めに医師法第1条の重要性に触れた。第1条には「医師は、医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする」という、いわゆる「予防医学」が規定されている。

 健康寿命を延長するには、発症してから発見・治療することに加えて、発症を予測・予防していく医療も大切にすることが重要である。山科氏は「日常診療において、目の前の疾患の治療に目が行きがちではあるが、予防医学の重要性を再認識しなければならない」と強調した。

血管障害を検出する意義とその指標
 では、循環器疾患を予防していくためには、どうすればよいのだろうか? 現在、血管障害を検出するにあたり、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの古典的な動脈硬化危険因子のみのリスク評価が行われていることが多い。しかし、血管障害の早期発見にはこれだけでは不十分である。山科氏は、昨今行われているABII)とbaPWVII)という2つの検査を紹介した。この検査を活用することで、より正確なリスクが評価でき、無症状のうちから血管障害の早期発見が可能となり、早期治療につなげることができるという。

循環器疾患を予防するための提案
 健康寿命を延ばすためには、循環器疾患の早期発見と治療の継続が重要である。そのためには、検査を活用し、ハイリスクな治療群を効率的に抽出することが望まれる。さらに、運動・食事・睡眠などの生活習慣を改善する意義について継続的な教育を行い、リスクが低いうちからイベント発症を予防していくことが求められる。

 山科氏は、「交通業界では、飲酒運転の罰則、シートベルトの義務化など安全対策への取り組み、交通安全の学校教育を続けた結果、車の台数が増え続けている現在でも自動車事故死亡率はなお減少し続けている。循環器疾患においても、血管障害の予防意識を教育していくことが発症予防につながるため、継続して行っていくべきだ」と力説した。

注釈:
I) ABI(足関節/上腕血圧比):足首と上腕の血圧を測定し、その比率を計算したもので、血管の狭窄や閉塞などが推定できる。通常は、横になった状態で両腕と両足の血圧を測ると、足首のほうがやや高い値を示す。しかし、動脈に狭窄や閉塞があると、その部分の血圧は低下する。動脈の狭窄や閉塞は主に下肢の動脈に起きることが多いため、血圧比によって足の動脈の詰まりを予測でき、ABIが低値になるほど詰まっている可能性が高くなる。

II) baPWV(上腕-足首間脈波伝播速度):上腕と足関節での脈波を採取し、2点間の時間差と距離を求めることで、速度を算出したもので、血管のしなやかさを評価できる。健常者の血管は伸展性があるため、拍動(脈波)は血管壁で吸収され、ゆっくりと伝わる。しかし、血管が硬化すると拍動が血管壁で吸収されず、速く伝わり、血管や臓器にダメージを与える。加齢などに加え、動脈硬化の危険因子によりbaPWVが高くなるほど、脳・血管系疾患を発症するリスクが大きくなる。

【参考】
1)厚生労働省「国民生活基礎調査2010」 
2)厚生労働省「健康日本21(第2次)」(PDF)

(ケアネット 中野敬子)