糖尿病を合併した乳がん患者は、糖尿病非合併患者と比べ予後が不良であると言われている。そのため、乳がんの転帰を改善するための抗糖尿病薬の評価が行われるようになった。メトホルミンは、主として肝臓の糖新生を抑制する抗糖尿病薬である。乳がん患者5,464人を対象とした最近のメタアナリシスでは、メトホルミン治療が、乳がん患者の全生存期間(OS)、がん特異的生存率の双方を改善することが報告されている。この研究は、HER2陽性乳がんのアジュバント患者を対象にしたラパチニブの第III相試験ALTTOのサブ解析として行われた。糖尿病合併患者の無病生存期間(DFS)、遠隔無病生存期間(DDFS)、OSを、メトホルミン投与の有無に分けて、糖尿病非合併患者と比較し、メトホルミンが糖尿病合併HER2陽性乳がん患者の転帰を改善するかを評価した。
主な結果は以下のとおり。
・糖尿病既往無し患者は7,935例、糖尿病既往有り患者は446例、追跡期間中央値は4.5年であった。
・糖尿病既往有り患者446例のうち、メトホルミン治療無し患者は186例、メトホルミン治療有り患者は260例であった。
・患者背景は糖尿病既往の有無で異なり、糖尿病既往有り患者は年齢が高く(p=0.001)、閉経女性が多く(p=0.001)、BMIが高値で(p=0.001)、腫瘍サイズが大きかった(p=0.001)。
・全体のイベント発生:DFS 1,205例 14.38%、DDFS 929例 11.08%、OS 528例 6.3%であった。
・糖尿病既往有り・メトホルミン治療無し患者のイベント発生:DFS 38/186例 20.43%(多変量HR:1.40、95%CI:1.01〜1.94、p=0.043)、DDFS 33/186例 17.74%(多変量HR:1.56、95%CI:1.10〜2.22、p=0.013)、OS 23/186例 12.37%(多変量HR:1.87、95%CI:1.23~2.85、p=0.004)と、糖尿病非合併患者に比べ有意に高かった。また、これはHR陽性患者にのみみられ、HR陰性患者では関係はみられなかった。
・糖尿病既往有り・メトホルミン治療有り患者のイベント発生:DFS 38/260例 14.62%(多変量HR:0.97、95%CI:0.70〜1.35、p=0.873)、DDFS 33/260例 10.77%(多変量HR:0.91、95%CI:0.62〜1.33、p=0.638)、OS 20/260例 7.69%(多変数HR:1.15、95%CI:0.73~1.81、p=0.541)と、糖尿病非合併患者と差はみられなかった。
(ケアネット 細田 雅之)