2017年10月16日、ノバルティス ファーマ株式会社は、同社のエルトロンボパグ オラミン(商品名:レボレード)およびシクロスポリン(同:ネオーラル)が、2017年8月25日に再生不良性貧血へ適応が拡大されたことから、「再生不良性貧血のメディカルニーズに対応する“輸血フリー”実現に向けた最新治療戦略 ~9年ぶりの治療選択肢の登場で変わる新たな薬物療法~」をテーマに、都内においてメディアセミナーを開催した。
いまだに機序は不明の難病
はじめに中尾 眞二氏(金沢大学 医薬保健研究域医学系 血液・呼吸器内科教授)が、「再生不良性貧血の病態と最新の治療」と題して、再生不良性貧血(AA)の病態、診療、治療の現在と展望について講演を行った。
一般に「貧血」とは赤血球が不足し、体内に十分な酸素が行き渡らない状態で、鉄欠乏性貧血が最も多くみられる。AAでは、造血幹細胞が外的に傷害され、赤血球、白血球、血小板がともに減少するが、その正確な機序はいまだ不明であるという。
血液が作られないことから、貧血からくるめまい、倦怠感、動悸・息切れ、易感染による発熱、出血傾向などが症状としてみられる。また、眼瞼が白くなる、体幹部の点状出血、壊疽ができるなどの身体所見も観察される。
AAの診断基準としては、好中球、ヘモグロビン、血小板の値、骨髄の低形成(細胞の密度が低い)、除外診断などの項目が挙げられ、各種検査により確定診断がなされる。そして、AAでは重症度を「1.軽症、2.中等症、3.やや重症、4.重症、5.最重症」の5つに分類し、各重症度によって異なった治療が行われる。
予後の改善が図られ、今では5年生存率も90%
AAの治療では、造血機能を改善する治療として、免疫抑制療法(抗胸腺細胞グロブリン[ATG]、シクロスポリン投与)、タンパク同化ステロイド療法、造血幹細胞移植、エルトロンボパグ療法が行われる。また、支持療法として成分輸血(重症度「3.やや重症」から必要)や顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、鉄キレート剤の投与も行われている。
60年ほど前までAAの患者の約半数は6ヵ月程度で亡くなるなど、予後がきわめて悪い疾患だったが、免疫抑制療法などの治療で現在は5年生存率が90%と向上し、寛解率も6割程度を維持しているという。
治療のポイントとして、血幹細胞が枯渇する前に治療を開始することが重要で、「免疫抑制療法で、軽症例からシクロスポリンが使用できるようになったことは意義が大きい」と中尾氏は語る。これにより、難治例の減少や医療費を抑えることもできると期待を寄せている。
ここで問題なのが、免疫抑制療法では、血球減少パターンで効果が異なることである。血小板減少と貧血が併存する場合に効果は発揮されるが、好中球減少と貧血の場合、効果はそれほどでもないという。
こうした、免疫抑制療法の治療抵抗性のある患者や高齢の患者への治療となるのが、エルトロンボパグ療法である。エルトロンボパグは、巨核球や骨髄前駆細胞の増殖や分化を促進することで血小板を作る。臨床試験によると、21例(非重症15例、重症6例)に25~100mgのエルトロンボパグを6ヵ月投与した結果、10例に一血球系統の増加がみられ、血小板輸血の6例中4例で、赤血球輸血の19例中9例で輸血が不要となった。副作用は、3例に染色体異常が出現したが重篤なものはなく、有害事象としては軽度なもので鼻咽頭炎、肝機能障害、蕁麻疹などが報告されている(承認時資料より)。
同氏は、「エルトロンボパグの登場で、輸血や骨髄移植の不要、奏効も期待できる」と今後の治療に期待を寄せる。実際、同氏が示した試案ではエルトロンボパグの適応として、「あらゆる治療を受けてきたが定期的な輸血が必要」な患者または「ATG療法が予定されている70歳以上で重症度3以上」の患者に適応度が高いと説明する。その一方で使用に際し、「晩期の副作用は未知の部分が多いので、定期検査を受けることが重要であり、若年者の初回ATG治療例では、エルトロンボパグを併用する必要があるかどうか、慎重に判断しなければならない」と注意を喚起し、レクチャーを終えた。
引き続いて、AAの患者会の患者と中尾氏の対談が行われた。その中で患者からは、「AAという疾患の詳しい説明がされず不安であったこと、見た目では健康にみえることで誤解され困っていること、AAという疾患が医師などの間でも十分知られておらず不便もあること」などが語られた。
■参考
再生不良性貧血.com
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希少疾病ライブラリ 再生不良性貧血
(ケアネット 稲川 進)