複雑病変に対し冠動脈ステント留置を受ける患者は、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を延長することによるリスクや利益が異なる可能性がある。DAPT Studyは、12ヵ月と30ヵ月のDAPTによる利益とリスクを比較した国際的な多施設二重盲検ランダム化比較試験であり、本研究では、米国Beth Israel Deaconess Medical CenterのRobert W. Yeh氏ら研究グループが経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後における2つの期間(30ヵ月と12ヵ月)のDAPTの効果を複雑病変の数に応じて評価した。Journal of the American College of Cardiology誌2017年10月31日号に掲載。
DAPT Studyから2万5,416例を評価
本研究では、2万5,416例の試験に組み入れられた患者およびチエノピリジン群とプラセボ群に無作為に割り付けられた1万1,554例について、心筋梗塞もしくはステント血栓症の発生、そして中等度~重症の出血について評価した。複雑病変は、以下のいずれかを含んだものと定義した。すなわち、(1)保護されてない左主幹冠動脈病変、(2)1つの冠動脈に2ヵ所以上の病変、(3)病変の長さが30mmを超える、(4)分岐部病変で分枝が2.5mm以上、(5)静脈バイパスグラフト、(6)血栓を含む病変、である。イベントは複雑病変の数に応じて評価され、DAPTスコアに応じて比較された。
複雑病変が多いほど、PCI後1年以内での虚血イベントが増加する
PCIから12ヵ月以内において、複雑病変が多い患者ほど心筋梗塞やステント血栓症の発生率が高かった(3.9% vs.2.4%、p<0.001)。最初の12ヵ月でイベントが発生しなかった患者の12~30ヵ月における心筋梗塞もしくはステント血栓症の頻度は、複雑病変の有無にかかわらず同等であった(3.5% vs.2.9%、p=0.07)。チエノピリジンによる12ヵ月以降の心筋梗塞もしくはステント血栓症の抑制効果は、複雑病変の有無にかかわらずチエノピリジン群とプラセボ群で同等であった(複雑病変あり:2.5% vs.4.5%、ハザード比[HR]:0.55、95%信頼区間[CI]:0.38~0.79、p<0.001、複雑病変なし:2.0% vs.3.8%、HR:0.52、95%CI:0.39~0.69、p<0.001、相互作用のp=0.81)。チエノピリジンの継続による、中等度~重症の出血の発生の上昇は、複雑病変の有無にかかわらず同程度認められた(相互作用のp=0.41)。複雑病変を有する患者のうち、DAPTスコアが2以上の患者は、スコアが2未満の患者と比べて、チエノピリジン継続群では心筋梗塞もしくはステント血栓症の減少がより大きかった。(スコア2以上:3.0% vs.6.1%、p<0.001、スコア2未満:1.7% vs.2.3%、p=0.42、リスク差の比較のp=0.03)。
DAPTスコアはDAPTの継続が有用な患者を同定できる
本研究では、複雑病変では虚血イベントが増加する傾向があり、その傾向はPCI後最初の1年で顕著であることが示された。最初の12ヵ月でイベントがない患者では、複雑病変の有無にかかわらず、DAPT延長による利益は認められなかった。また、複雑病変の有無にかかわらず、DAPTスコアが高い患者は、DAPT延長の利益を得られる可能性が高いことがわかった。
(カリフォルニア大学アーバイン校 循環器内科 河田 宏)
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