JAK阻害薬が関節リウマチの新治療戦略へ

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2018/09/05

 

 2018年8月28日、ファイザー株式会社は、関節リウマチ(RA)プレスカンファレンスを都内で開催した。本セミナーでは、トファシチニブ(商品名:ゼルヤンツ)の発売開始から5年を期し、「日本人3,929例の全例市販後調査 中間解析に基づく安全性評価」をテーマに講演が行われた。

関節リウマチの治療推奨は欧州と同等
 田中 良哉氏(産業医科大学医学部 第1内科学講座 教授)は、RAの新治療戦略について「リウマチ患者の関節は(炎症を起こしているから)腫れていて触ると熱い。一度変形した関節は二度と元に戻らない。また、患者の半分近くがドライアイ・ドライマウスを抱えており、肺病変も起こりうる。関節だけでなく、全身症状を伴うからこそ、適切な治療が必要だ」と強調した。

 わが国におけるRAの治療指針は、欧州リウマチ学会によるレコメンデーション(EULAR 2016 update)1)にほぼ準拠している。RAの診断後、PhaseIではDMARDsであるメトトレキサート(以下MTX、MTX禁忌の場合はレフルノミド、スルファサラジンを単剤/併用)と短期間のステロイド剤併用を開始し、3ヵ月以内の改善および6ヵ月以内の治療目標達成(寛解または低疾患活動性)の場合は治療継続、効果不十分・副作用などで達成できなかった場合は、PhaseIIへと進む。

 PhaseIIでは、別のDMARDsへの変更・追加とステロイドの併用療法を行うが、予後不良因子(自己抗体高値、高疾患活動性、早期の骨びらん・関節破壊出現など)がある場合、またはDMARDsの併用に不応の場合は、生物学的製剤とJAK阻害薬のいずれかを使用する。それでも治療目標を達成できない場合には、PhaseIIIへ移行し、生物学的製剤の変更、JAK阻害薬への切り替え、2剤目のTNF阻害薬の追加などが検討される。

JAK阻害薬は治療抵抗例に有効な可能性
 田中氏の医局の成績では、生物学的製剤の導入により、治療開始1年後には約3分の2の患者が低疾患活動性に到達できるという。しかし、残った中疾患活動性以上の患者では、関節破壊が進行してしまう。JAK阻害薬であるトファシチニブは、生物学的製剤による治療で効果不十分だった患者にとって、新たな選択肢となりうる。

 2013年に行われたインターネットのアンケート調査2)によると、RA患者の32.6%(n=914)が発症後に仕事を辞めたもしくは変えたことがあると回答している。また、生物学的製剤の治療を受けている患者の37%(n=55)は、無効などを理由に治療に落胆を感じたという。「生物学的製剤ですべての患者が救われるわけではない」と同氏は語った。

 経口服用できるトファシチニブは、単独でもMTXとの併用でも使用可能で、生物学的製剤と同等の効果があるとされ、期待が持たれている。RAに対するトファシチニブ休薬の多施設試験3)では、継続例では再燃がほとんど起こらなかったのに加え、寛解後の休薬例でも54人中20人が1年以上低疾患活動性を維持できたと紹介された。

JAK阻害薬は安易に使っていい薬剤ではない
 一方、田中氏はJAK阻害薬の有用性だけでなく、適正使用に関しても強く訴えた。「内服薬だからといって、安易に使っていい薬剤ではない。治療前のスクリーニングと治療中のモニタリングを適切に行い、全身管理が可能な医師に使ってほしい」と述べた。引き続き、安全性への注意が重要である。

 同氏は、関節リウマチの治療戦略として「関節破壊ゼロを目指す」と掲げ、関節破壊が生じる前の治療、早期寛解導入を目指し、その後維持をすることで「普通の生活を送る」ことに重点を置いた。現在は、RA患者の生活スタイルや嗜好に合わせて治療選択をすることが可能であり、専門医らによる適切な治療の推進が望まれる。

トファシチニブによる副作用報告
 渥美 達也氏(北海道大学大学院医学研究院 免疫・代謝内科学教室 教授)は、「ゼルヤンツの特定使用成績調査に基づく安全性評価」について、RAに対する特定使用成績調査(日本人3,929例)における中間報告を紹介した。調査の対象患者は、MTX 8mg/週を越える用量を3ヵ月以上継続して使用してもコントロール不良のRA患者にトファシチニブが投与された例であり、全観察期間は3年間。投与中止症例についても、悪性腫瘍発言に関しては追跡調査を実施した。

 6ヵ月観察における副作用発現割合では、感染症が最も多く11.22%を占め、突出して多かったのは帯状疱疹(3.59%)であり、上咽頭炎(1.47%)、肺炎(1.19%)が続いた。65歳以上で感染症の可能性が高くなるという結果もある。

 懸念されていた悪性腫瘍については、3,929例中61例が報告されており、そのうち女性が68.9%、男性が31.1%を占めた。対象患者の割合は女性が80.5%であったため、悪性腫瘍の頻度は男性のほうが高くなる可能性がある。今後もエビデンスを構築と適切な評価のために、トファシチニブの全例調査は引き続き実施されるという。

(ケアネット 堀間 莉穂)

参考文献・参考サイトはこちら

2)田中 良哉ほか.新薬と臨牀. 2013;62:.758-777.