2018年9月18日、フィリップス・ジャパンは、都内において同社が推進する「Heart safe city構想」に関する記者発表会を行った。この構想は、心肺停止からの社会復帰率「世界一」を目指すもので、発表会では今後の計画と心肺蘇生に関するわが国の現状が解説された。
心肺停止からの生存率、社会復帰率の低さの原因
はじめに同社代表取締役社長の堤 浩幸氏が、わが国の心停止の救命の現状と今回の「Heart safe city構想」について説明した。
わが国には自動体外式除細動器(以下「AED」と略す)が約60万台普及しているにもかかわらず、その使用率は約4.7%に過ぎず、年間約7万5,000人の命が突然死により失われている。そこで同社は、「Heart safe city構想」を掲げ、「心肺停止から社会復帰率“世界一”の実現を目指し、自治体との協働を行う」という。
わが国の心肺停止からの平均生存率は10%前後であるのに対し、欧米は60~70%と非常に高い。また、全国都道府県別の心肺停止からの生存率と社会復帰率では、地域格差もみられる。生存率、社会復帰率の低さの原因として、「初動対応の遅れ」「AED実施率の低さ」「救急需要の増加」の3点が挙げられ、「これらの課題の解決が急がれる」と同氏は語る。
具体的な今後の取り組みとしては、AEDの適正配置、継続可能な教育(人材育成として最初にAED操作をするファーストレスポンダーの育成)、行政・自治体との協働による体制作りにより、前述の課題解決に努めるという。
おわりに同氏は、「今後『Heart safe city構想』に賛同を示した自治体などと連携し、『救命の連鎖』『自助×共助×公助』のために継続的なサポートを行っていく」と抱負を語り、説明を終えた。
心停止で10分経過すると救命はほぼ難しい
つぎに田中 秀治氏(国士館大学 救急システム研究科 研究科長・教授)が「心肺蘇生に関する日本の実態について」をテーマに、わが国の心肺蘇生とその後の社会復帰について解説を行った。
心臓に起因する突然死を起こす患者像として50~70代の男性が多く、また、心停止の発生場所としては自宅(75%)が圧倒的な比率を占め、つぎに公共屋外(11%)、医療施設(9%)、公共屋内(4%)と続いていると説明した。
そして、心停止で倒れて3~5分以内にAEDが使用できれば70%近くの救命が可能だが、10分を経過すると低酸素脳症により救命はほぼ難しく、5分以内にAEDを使用できるかどうか、AED設置の施設内ではすぐ使える体制にあるかが重要だと指摘する。
また、救急車の出動要請から現場到着まで平均で8.6分(2017年総務省レポート)、そして患者への処置まで含めると13.6分程度の時間がかかるとの報告もあり、現場の市民による心肺蘇生、AEDの使用が大切だと繰り返し語った。具体例として、2009年の東京マラソン中に急性心筋梗塞で倒れたコメディアンの松村 邦洋氏を挙げ、「約7分の胸骨圧迫後にAEDを使用し、心拍が再開した。現在、後遺症もなく、AEDの早期使用は有用であることを示す一例だった」と説明した。
しかしながら、市民の側にこうした応急処置を躊躇させる理由があると指摘。(1)応急手当の方法がわからない、(2)処置後の法的責任に不安があるとなどの理由を挙げた。(1)については、AEDを扱える人を講習会などの開催で今後増やすことで、ファ-ストレスポンダ-の育成とAEDの普及を目指すと同時にAEDの設置場所についてもわかりやすく明示されるように工夫をしていくという。また、(2)については、救命処置に対しわが国では、「刑法第37条【緊急避難】と民法第698条【緊急事務管理】で刑事・民事ともに結果への責任が免責されているが、一般的に知られていないのが問題。この不安感解消に向けても啓発を行っていきたい」と語り、講演を終えた。
(ケアネット 稲川 進)