欧米で開発された心不全患者の突然死の統計的な発症予測モデルSeattle Proportional Risk Model(SPRM)を用いることにより、日本人の心不全患者においても高い精度で突然死の発症を予測できることが示唆された。突然死の予防に有効な植込み型除細動器(ICD)を含めた治療方針を検討するうえで役立つことが期待される。2019年3月29~31日に開催された第83回日本循環器学会学術集会で、慶應義塾大学医学部循環器内科の福岡 良磨氏らが発表した。
心不全の患者では、突然死のリスクが高いことが知られている。わが国の急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)では、心臓の駆出率と心不全症状の程度の2項目による突然死リスク(ICD適応)の評価を推奨しているが、これだけの情報では突然死の発症予測は難しいと指摘されている。一方、欧米では、米国・ワシントン大学のWayne C. Levy氏らにより、患者の年齢/性別、身長/体重、血圧、心臓の駆出率、心不全症状の程度、血液検査所見などの10項目を加味して統計的にリスク予測を行うSPRMが開発され、高い精度での突然死予測能が得られている。今回、福岡氏らはワシントン大学との共同研究により、日本人心不全患者の突然死の発症頻度を調査するとともに、SPRMを用いた際の突然死の予測能を検証した。
本研究では、2009年1月から2015年8月までに慶應義塾大学病院、榊原記念病院、杏林大学病院、聖路加国際病院に入院し、West Tokyo Heart Failure Registryに登録された急性心不全患者2,240例を解析した。
主な結果は以下のとおり。
・2年間の追跡の結果、356例(15.9%)の全死亡を認め、そのうち76例(3.4%)が突然死だった。
・SPRMは日本人においても、欧米と同等に良好な精度で突然死を予測できた(C統計量:0.63[95%信頼区間:0.56~0.70])。
・心臓の駆出率が低下した患者において、従来のガイドラインによる基準(心臓の駆出率の低下と心不全症状の程度の2項目)と、SPRMによる突然死の予測能を比較したところ、SPRMによる突然死の予測能のほうが精度は高かった(ガイドラインによる基準でのC統計量:0.53[95%信頼区間:0.42~0.63]、SPRMでのC統計量:0.65[95%信頼区間:0.55~0.75])。
(ケアネット 金沢 浩子)