国立循環器病研究センターでは2年前、心房細動罹患予測確率を計算する吹田心房細動リスクスコアを開発した。しかし、心房細動発症予防のための生活習慣に関するエビデンスは、わが国では喫煙と飲酒のみときわめて少ない。今回、国立循環器病研究センター予防健診部の小久保 喜弘氏らは、吹田研究を用いて心房細動になりにくい健康的な生活習慣の指標を検討し、それを吹田心房細動リスクスコアに加えることにより予測能が向上することを示した。健診や日常外来で用いることにより、心房細動の予防啓発につながることが期待される。2019年3月29~31日に開催された第83回日本循環器学会学術集会にて発表された。
理想の生活習慣の因子別に心房細動罹患調整ハザード比を算出
本研究では、健診受診者のうち、ベースライン時検査で心房細動有病者を削除した6,195人(30~79歳)を平均14年間追跡した。ベースライン時に、基本の健診の他に健康アンケート、生活習慣問診(食事、身体活動、睡眠、ストレス)、既往歴/現病歴を聴取した。食事については122項目の半定量食物摂取頻度調査を実施し、個人の平均的な食事からの栄養素、食品を集計した。追跡期間中の心房細動の判断については、2年に1回の健診受診時に心電図検査で心房細動・心房粗動(持続性・一過性)が認められた場合、問診現病歴で心房細動と認められた場合、診療録に心房細動を確認し認めた場合、原死因で心房細動を認めた場合のいずれか早い時点で、心房細動ありとして打ち切りとした。エンドポイントは、最終の健診受診日、最新の発症登録日、2015年12月末とし、Cox比例ハザードモデルを用いて解析した。
心房細動になりにくい健康的な生活習慣の指標を検討した主な結果は以下のとおり。
・8万6,957人年の追跡期間中、257人の心房細動罹患が観察された(男性:4.7/1,000人年、女性:2.1/1,000人年)。これは、日本の人口で計算すると毎年45万人以上が発症していることになる。
・理想の生活習慣の因子別による心房細動罹患調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりであった。
- 健康的な食生活:「大豆製品(豆腐換算で半丁/日程度以上)」「野菜300g/日以上」「魚5回/週」「減塩(6g/日未満)」「清涼飲料水を控える」の5項目のうち3項目以上満たした場合、0.51(0.30~0.85)
- 健康的な身体活動:「3階に上がるときに階段を利用する割合」が6割以上ある場合、0.72(0.53~0.98)
- 健康的な睡眠時間:「6時間以上」で0.77(0.59~0.99)
- タバコを吸わないこと:0.71(0.53~0.95)
- 適正飲酒以下(男性:1合/日以下、女性:半合/日以下):0.61(0.44~0.85)
・上記の理想の生活習慣因子5項目のうち、0または1個のみを満たす場合を基準とすると、3個満たす場合の心房細動罹患リスクは3分の1、4個以上満たす場合は4分の1となった。
・理想の生活習慣因子を吹田心房細動リスクスコアに追加することで、C統計量は0.748から0.766と有意(p<0.05)に高まり、予測能が向上することが示された。
(ケアネット 金沢 浩子)