マンモグラフィ検査の限界として、高濃度乳房で腫瘍が発見されにくくなる“マスキング効果”が指摘されている。そのため、「高濃度であれば追加検査を推奨し、非高濃度であれば安心」という論調がある。しかし、少なくとも40代の女性においては、高濃度か非高濃度かによらず、超音波検査の追加によってベネフィットが得られる可能性が示唆されている。第27回日本乳癌学会学術総会にて、東北医科薬科大学医学部・乳腺内分泌外科の鈴木 昭彦氏が、「J-STARTからみたDense Breast対策」と題して講演した。
米国では、2019年3月に乳がん検診に関する新たな方針案が示された。この方針案では、受診者への乳房構成の通知を義務付けることで、検診受診の判断を個人の裁量に委ねる方向性となっている。一方本邦では、40代後半から50代前半で最も乳がん罹患率が高いにもかかわらず、この年代でマンモグラフィの感度が低いため、いかに有効な検診を提供できるかが重要となる。
超音波検査の追加によって非高濃度乳房でもがん発見率と感度上昇
鈴木氏らは、J-START試験参加者のうち、乳房構成のデータのある一部(11,432人)の症例を対象に、高濃度乳房群と非高濃度乳房群における超音波検査の影響を解析した。マンモグラフィ+超音波検査の介入群(超音波検査追加群)と、マンモグラフィのみのコントロール群の人数はそれぞれ5,781人 、5,651人であった。
全体の初回検診結果をみると、がん発見率:超音波検査追加群0.74% vs.コントロール群0.42%、要精検率:14.1% vs.9.8%、感度:93.5%(95%信頼区間:0.86~1.01)vs.72.7%(0.58~0.88)でp=0.02、特異度:86.6%(85.7~87.5)vs.90.6%(89.8~91.4)でp<0.001と、J-START試験の全国集計値とほぼ同様の傾向であった。
次に、高濃度乳房群(きわめて高濃度+不均一高濃度)と非高濃度乳房群(乳腺散在+脂肪性)で初回検診結果を比較すると、がん発見率は、高濃度乳房群で超音波検査追加群0.74% vs.コントロール群0.40%と超音波検査追加群で上昇した。一方の非高濃度乳房群でも、0.75% vs.0.46%と超音波検査追加群で高く、非高濃度乳房であっても、超音波検査の追加によって一定数の乳がんが新たに発見されていることが明らかとなった。
感度においても、高濃度乳房群で96.2%(88.8~103.2)vs. 72.2%(51.5~92.9)と超音波検査追加群で約24%上昇し、非高濃度乳房群でも90.0%(95%CI:76.9~103.6)vs. 73.3%(51.0~95.7)と超音波検査追加群で約17%上昇した。
40代女性への超音波検査の上乗せは乳がん発見率を大きく改善
鈴木氏らによる2008年発表の研究1)において、年齢別・乳房構成別にマンモグラフィのがん発見感度をみると、40代女性では高濃度乳房だけでなく、乳腺散在の場合も50代以上と比較して感度が低い傾向がみられている(40代:69.2%、50代:80.7%、60代:79.7%)。
また、不要な要精検率の増加という“検診による不利益”についても検討。J-START試験参加者のうち、2007~08年の参加者6,731人をサンプル調査し、超音波検査追加群とコントロール群の初回および2回目検診における要精検率の変化を調査した。その結果、超音波検査追加群の要精検率は初回13.1%、2回目5.6%、コントロール群の要精検率は初回6.9%、2回目4.3%であった。しかし、陽性反応的中率(PPV)は超音波検査追加群で初回3.6%、2回目6.4%と上昇しており、検診の精度は保たれていた。
鈴木氏は、「検診の真の有効性を証明する指標は死亡率減少であり、現状で超音波検査を無条件で推奨できるエビデンスは存在しない。しかし、40代の日本人女性への超音波検査の上乗せは、乳がん発見率を大きく改善し、その効果は高濃度乳房でとくに顕著だが、非高濃度乳房でも明確にみられる。精度管理により不利益を最小化する努力が重要なのではないか」と締めくくった。
(ケアネット 遊佐 なつみ)