入院や施設への入所、がんなど他疾患の発症をきっかけに、高齢者が一次予防のために服用していたスタチンを中止した場合、継続した場合と比較して心血管イベントによる入院リスクが増加した。フランス・ピティエ-サルペトリエール病院のPhilippe Giral 氏らは、75歳まで一次予防目的でスタチンを服用していた高齢者の心血管転帰に対するスタチン中止の影響を、大規模コホート研究により評価した。European Heart Journal誌オンライン版2019年7月30日号掲載の報告より。
本研究は、フランスの国民医療データベースを使用した人口ベースのコホート研究。2012~14年に75歳になり、CVDの既往がなく、過去2年間にスタチンの総投薬量に対する実服薬量の割合(medication possession ratio:MPR)が80%以上だったすべての人が対象とされた。
スタチンの中止は3ヵ月連続の服用なしと定義され、アウトカムとして心血管イベントによる入院が設定された。スタチンを中止した場合と継続した場合を比較するハザード比は、ベースライン時点と時間依存共変量(心血管薬の使用、併存疾患、フレイル指標)の両者を調整する周辺構造モデルを用いて推定された。
主な結果は以下のとおり。
・12万173人が平均2.4年追跡され、うち1万7,204人(14.3%)がスタチンを中止し、5,396人(4.5%)が心血管イベントのために入院した。
・スタチン中止に関連した要因は、フォローアップ期間中の入院(調整オッズ比[aOR]:最大3.28)、高度看護施設への入所(aOR:2.66)、転移性の固形がん(aOR:2.22)、経管あるいは経口栄養摂取の開始(aOR:2.13)などであった。
・スタチンを中止した場合の調整ハザード比は、全心血管イベント(1.33、95%信頼区間[CI]1.18~1.50)、冠動脈イベント(1.46、95%CI:1.21~1.75)、脳血管イベント(1.26、95%CI:1.05~1.51)、その他の血管イベント(1.02、95%CI:0.74~1.40)であった。
・ベースライン時の糖尿病の有無によって、スタチン中止の心血管イベントによる入院への影響をサブグループ解析した結果、糖尿病有(3万3,617例、うち中止3,857例)の調整ハザード比は1.14(95%CI:0.89~1.44)、糖尿病無し(8万6,566例 、うち中止1万3,347例)は1.41(95%CI:1.23~1.62)であり、糖尿病有の場合のスタチン中止による影響は統計的に有意ではなかった。
75歳以上が一次予防として服用していたスタチンを中止することは、心血管イベントによる入院リスクが33%増加することに関連していた。研究者らは、本研究が後ろ向きの観察研究である点を限界として挙げ、ランダム化比較試験を含むさらなる研究が必要としている。また、糖尿病患者におけるサブグループ解析結果については、ベースライン時点で糖尿病があった場合にもともと心血管リスクが高いことで部分的に説明できる可能性があるとし、より詳細な研究が必要とまとめている。
(ケアネット 遊佐 なつみ)