3月3日、日本感染症学会(理事長:舘田 一博)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の特設ページの中で、宮下 馨氏(国際医療福祉大学熱海病院 糖尿病代謝内科)らによる「ロピナビル・リトナビルで治療した新型コロナウイルス肺炎(COVID-19)の症例報告」を公開した。
症例報告は、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号に乗船の70代・女性の症例。搬送時には無症状であったものの、のちに高熱と肺炎を生じ、抗HIV薬であるロピナビル・リトナビル配合剤(商品名:カレトラ)で治療を行ったもの。投与後は自覚症状の改善があり、入院後20日間でPCRの陰性化を確認し、退院に至った。
症例の経過
2/4 PCR検査を実施し、陽性
2/7 当院に転送(入院時身体症状なし、X線・CT検査所見ともに肺炎像なし)
2/8 検温で37.4℃の発熱(19時)
2/9 検温で39.1℃(16時)。身体症状は倦怠感のみ、CT検査所見で左上葉や右中葉背側部にすりガラス影主体の陰影が出現
2/10 検温では38℃台で経過し、咳嗽や咽頭痛が顕在化
2/11 再度のCT検査でそれぞれの肺野異常陰影が拡大、悪化。カレトラの投与を開始する方針となった
2/12 カレトラ配合錠1回2錠(400/100mg)を1日2回、10日間の計画で投与開始
2/13 夜間に副作用と思われる水様下痢が出現。強い倦怠感は消失
2/14 解熱とともに、下痢に対し整腸剤を処方
2/16 CT検査所見では引き続き病変が増悪。新出病変も認められていた
2/21 CT検査所見で病変の改善が得られた
2/22と/25に喀痰検体によるPCRを実施し、ともに陰性。臨床症状改善とPCR陰性化を確認
2/26 退院
重症化予防には肺炎診断を得た時点で治療介入
宮下氏らは考察として「高齢であり、重症化のリスクがあると判断し臨時の倫理委員会の審査のもと早期の介入を決定した」「画像所見の増悪に反し臨床経過は改善に転じており、本例の経過に限って言えばカレトラの投与は好意的に評価して良い」「酸素化低下などの重症化の徴候を待たず、肺炎の診断を得た時点で早期に治療介入を行うことで重症化の阻止、致命率の低下をもたらすことができるかもしれない」とレポートしている。
なお、今回の報告は通常のレポート公開ではなく、緊急性、重要性を鑑み、学会からの緊急報告としてのホームページでの情報公開のお願いにより公開されたものである。
(ケアネット 稲川 進)