2020年3月5日、日本臨床微生物学会は「COVID-19緊急Webセミナー」を行った(司会は舘田 一博氏[東邦大学医学部 微生物・感染症学講座 教授]・大塚 喜人氏[亀田総合病院 臨床検査部 部長])。
Web配信形式で行われた本セミナーは、臨床検査に関わる医療従事者(医師、臨床検査技師、看護師等)を対象として、PCR検査の検体採取時の注意点、保管・輸送方法、検査結果の解釈等について周知を図る目的で開催された(準備ができ次第、 学会サイトで動画公開予定)。
最初に、細川 直登氏(亀田総合病院感染症科 部長)が「診断に必要な検査と検体採取時の注意点」について発表を行い、COVID-19の下記の基本事項を確認した。
・初期症状は、一般の感冒症状と区別がつかない
・潜伏期は2~14日と推測(米疾病対策センター[CDC]データによる)
・潜伏期にも感染性がある
・無症状病原体保有者も存在
・発症後1週間程度で、呼吸困難を発症する症例に注意(胸部単純レントゲンで浸潤影が見られない肺炎が多い)
そのうえで、細川氏は「COVID-19疑いの確度を上げるには胸部CTが有効。これまでに発表された論文によると両肺の胸膜側にすりガラス影が出ることが特徴的で、問診とCTで疑い患者を絞り込むことが大切だ」と強調した。
鼻腔からの上気道検体採取が現実的
PCR検査の検体には上気道検体と下気道検体がある。
・上気道検体
-鼻咽腔スワブ…咽頭スワブよりも感度が高い。
-咽頭スワブ…鼻咽腔スワブができない場合に実施。
・下気道検体
-喀痰…乾性咳嗽が多く、そもそも出ないことが多い。
-気管支肺胞洗浄(BAL)…感染リスクがあり、ほとんど行われていない。
この状況を踏まえ、「現段階では鼻咽腔から採取することが多いと考えられる」(細川氏)。
【検体採取時の注意点】
検体採取は感染防止手技のトレーニングを受けたものが行うことが原則となる。
・スワブは「ウイルス培養用」を使う(「細菌培養用」は不可)。
・検体採取前に患者情報(氏名・年齢・性別・検体種別)を記入する。
・鼻咽腔検体採取の場合…鼻腔に対してまっすぐに挿入。咽頭後壁にあたった状態で5秒間待つ。
・ラインを目安に綿棒を試験管のフチで折る(折った後の検体側を手で触れないように注意する)。キャップをして完了。
細川氏は「
厚労省通知にある発熱等の要件は『PCR検査をしなければならない基準』ではない。臨床経過が合致し、CTで肺炎を疑う症例にはPCR検査を行い、検査結果と患者の状況が矛盾するときはほかの鑑別を検索し、それが否定されたときPCR再検査を選択する、という流れになるだろう。当院でも、すりガラス影が出た患者のPCR検査結果が陰性で、その後に心不全だったことがわかった、という症例を経験した」と述べた。
採取後の保管・搬送時にも注意
続いて、三澤 成毅氏(順天堂大学医学部附属順天堂医院 臨床検査技師長)が「臨床検体の取り扱いと各検査時の対応」を発表した。
【検体採取後の注意点】
・検体採取後の環境は0.1%次亜塩素酸ナトリウムで浸したペーパータオルで拭き取る。
・使用済み器材やPPEはビニール袋に入れ、感染性産廃用ボックスに廃棄する。
・採取後の検体は診療エリアに保管せず、臨床検査部門へ提出する(提出できない場合は、汚染物専用保冷庫を準備)
【検体搬送時の注意点】
・検体は3重包装(一次容器:検体容器、二次容器:密閉できるプラスチック袋[吸収剤を入れる]、三次容器:プラスチック製の堅牢な容器)
・容器には、新型コロナウイルス感染症疑い患者の検体であることを明示し、ほかの医療スタッフが認識できるようにする。
・新型コロナウイルス感染症疑いの患者検体は、世界保健機構(WHO)による「感染性物質の輸送規制に関するガイダンス」分類の「カテゴリーB」にあたり、その搬送規定に従う(
厚生労働省「病原体等の国内輸送について)。
・輸送ルートは、ほかの患者とできるだけ接触しない導線を選ぶ。
採取前にPPE着脱法の確認を
検体採取前にはPPE(個人防護服)を装着する必要がある。とくに外す際に感染が起きやすいので事前に練習が必要である。
【装着時の順番と注意点】
1)ガウン
・手指衛生をする
・長袖、膝までの長さのものを使用
・袖はまくりあげない
2)マスク
・鼻あて部を小鼻にフィットさせる
・プリーツを伸ばし、鼻から顎までを覆う。
3)ゴーグル・フェイスシールド
・眼と顔が完全に覆われるように装着。
4)手袋
・手首が露出しないようガウンの袖口までを覆う。
【外す時の順番と注意点】
1)手袋
・手首部分の外側をつまみ、手袋を中表にして外す。
・手袋を外した指先でもう一方の手袋の内側に差し入れ、手袋を引き上げるように外す。
・2枚の手袋をひとかたまりにして破棄する。
2)ゴーグル・フェイスシールド
・外側は汚染されているので、フレーム部分や両側をつまんで外す。
・そのまま破棄する。
3)ガウン
・ひもを外し、ガウンの外側に触れないように首と肩の内側から手を入れて中表にしながら脱ぐ。
・脱いだガウンは小さく丸めて破棄する。
4)マスク
・外側は汚染されているので決して触れず、ゴムやひもをつまんで外し、そのまま破棄する。
・手指衛生を行う。
※気管吸引液を採取するようなエアロゾルが発生する手技の場合はN95マスク着用を推奨
N95マスクは、フィットテストにより最適な製品を選び、使用時シールチェックで確認する。
(三澤氏の資料より抜粋)
・セミナー動画では9分30秒前後から細川氏による装着解説動画あり。
・日本環境感染学会「
医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第2版」においては脱着時に手袋とガウンを一緒に脱ぐとされているが、いずれの方法でも可
●マニュアル・教育ツール・手引き
【日本臨床微生物学会】
医療者向け動画配信/新型コロナウイルス感染症に対する個人防護具の適切な着脱方法
~医療従事者が新型コロナウイルス感染症に感染しないために~
・臨床材料の取扱いと検査法に関するバイオセーフティーマニュアル
-SARS疑い患者-
・新型コロナウイルス(2019-nCoV)感染(疑いを含む)患者検体の取扱いについて
【国立感染症研究所】
・2019-nCoV (新型コロナウイルス)感染を疑う患者の検体採取・輸送マニュアル
【日本環境感染学会】
・日本環境感染学会教育ツールVer.3(感染対策の基本項目改訂版)
【職業感染制御研究会】
・安全器材と個人用防護具
【WHO】
・Rational use of personal protective equipment for coronavirus disease 2019 (COVID-19): Interim guidance, 27 February 2020
・Laboratory biosafety guidance related to coronavirus disease 2019 (COVID-19): interim guidance, 12 February 2020
(ケアネット 杉崎 真名)