サノフィ株式会社は、6月16日、酵素補充療法剤として現在開発中のavalglucosidase alfa(以下「本剤」という)が、遅発型ポンペ病の患者の臨床症状(呼吸障害と運動性の低下)に対し臨床上意義ある改善をもたらしたと報告した。
世界には推定5万人の患者がいるポンペ病
ポンペ病は、ライソゾーム酵素の1つである酸性α-グリコシダーゼ(GAA)の遺伝子欠損または活性低下が原因で生じる疾患。グリコーゲンが近位筋肉や横隔膜をはじめとする筋肉内に蓄積し、進行性の不可逆的な筋疾患が生じる。世界の患者数は約5万人と推定され、乳児期から成人後期のいずれの時期にも発症する可能性がある。
本症は、遅発型と乳児型に分類され、遅発型では1歳以降から成人後期までのいずれかの時期に発症する。遅発型の特徴的な症状は、呼吸機能の低下と筋力低下で、多くの場合、運動機能の低下に至る。患者は、歩行が困難となり、車椅子での生活を余儀なくされることが多く、呼吸困難が現れ人工呼吸器が必要となることもあり、主な死因は呼吸不全となっている。乳児型は生後1年以内に発症し、骨格筋の筋力低下に加え、心機能障害がみられる。
COMET試験の概要
今回報告されたCOMET試験は、無作為化二重盲検第III相試験で、20ヵ国56施設において治療経験のない遅発型ポンペ病の小児患者または成人患者100例が対象。患者を無作為化し、本剤群またはアルグルコシダーゼアルファ(標準治療薬)群に割り付け、いずれの群とも49週間にわたり1回20mg/kgの点滴静脈内投与を隔週で受ける。49週間後、非盲検の継続投与を行い、標準治療群については本剤20mg/kgによる治療に切り替える。
主要評価項目は、呼吸筋機能の変化で、立位での予測値に対する比率をパーセントで表した努力性肺活量(%FVC)に基づき評価した。本剤群の患者は、アルファグリコシダーゼの標準治療群の患者に比べ、%FVCが2.4ポイント改善し(95%信頼区間[CI]:-0.13/4.99)、試験計画で規定した非劣性の基準を上回る呼吸機能の改善を示した(p=0.0074)。ただ、主要評価項目の優越性については、本剤群は統計学的に有意な優越性を示すには至らなかった(p=0.0626)ため、試験計画で定めた解析の実施順序に従い、副次評価項目に関する正式な統計学的検討は行わなかった。主な副次評価項目は、6分間歩行試験による運動性の評価、呼吸筋力、運動機能と生活の質(QOL)を評価など。
本剤の安全性プロファイルは標準治療薬と同様で、49週間の二重盲検試験の期間中、本剤群44例、標準治療群45例に有害事象が現れた。重度の有害事象は、本剤群6例、標準治療群7例。重篤な有害事象が現れた患者数は、本剤群(8例、うち1例は投与との因果関係が否定できない重篤な有害事象)の方が標準治療群(12例、うち3例は投与との因果関係が否定できない重篤な有害事象)より少数だった。標準治療群では、4例が有害事象のため投与中止に至り、1例は急性心筋梗塞(投与との因果関係なし)のため死亡した。本剤群での投与中止や死亡はなかった。
avalglucosidase alfaの概要
ポンペ病の酵素補充療法の目標は、筋細胞の中にあるライソゾームに酵素を送り届け、欠損しているか機能低下がみられる酸性α-グルコシダーゼに代わって筋肉内のグリコーゲン蓄積を防ぐことにある。本剤は、筋肉内、とくに骨格筋の細胞に酵素を送り届ける機能を高めるよう設計されていて、標準治療で用いられるアルグルコシダーゼアルファに比べ、-マンノース-6-リン酸の含量を約15倍に高めた物質で、酵素の細胞内への取り込みを向上させ、標的組織において高いグリコーゲン除去効果を得る目的で開発された。ただ、この差の臨床的意義は、まだ確認されていない。
同社では、「今回の試験結果により、avalglucosidase alfaをポンペ病の新たな標準治療薬として確立させるという目標に向けた歩みがまた一歩進んだ」と期待をにじませている。
また、今回のデータに基づき、2020年下半期に世界各国で承認申請を行う予定であり、米国食品医薬品局(FDA)は、ポンペ病と確定診断された患者に対する治療薬候補として画期的新薬として、ファストトラック審査の対象に指定している。
(ケアネット 稲川 進)