日本認知症予防学会と食から認知機能について考える会が9月に「食と認知機能に関する意識調査の結果発表」を公開し、食や食成分による認知機能改善効果を期待する人が5割以上にのぼることを明らかにした。この詳細は、浦上 克哉氏(鳥取大学医学部保健学科生体制御学講座環境保健学分野 教授/日本認知症予防学会 理事長)が食から認知機能について考える会発足記者会見で報告した。
この調査は1)認知症の理解、認知症の予防に対する理解レベルの確認、2)とくに食生活が関与する認知症予防への理解と信頼感の確認、3)認知症予防への関心喚起を目的とし、2020年3月にWebを用いて、30代以上の一般男女1,030名と日本認知症予防学会学会員380名(医師:102名、メディカルスタッフ:278名)に行った。
一般人より医療者のほうが食事に認知機能改善を期待
本調査では、認知機能の低下へのイメージ、食や食成分・機能性表示食品の認知機能改善の効果への期待度、機能性表示食品等の食成分エビデンスの信頼度やその理由などを設問に設定し、一般結果と医師・メディカルスタッフの回答結果を比較した。たとえば、“食や食成分が認知機能改善に効果があると思いますか”という質問では、一般と医師・メディカルスタッフの回答割合の傾向はほぼ同じであるものの、一般人のほうが食に対する懐疑的な意見が多かった。一方で機能性表示食品について同様の質問をしたところ、医師・メディカルスタッフは、「大いに期待」「やや期待」という声が多かった。ただし、機能性表示食品等のエビデンスへの信頼度については、一般も医師・メディカルスタッフ共に8割近くが「信頼できない」「どちらともいえない」と回答している。これについて浦上氏は「『信頼できる学術誌で発表されていない』『データが不十分』『企業に有利なことしか開示していない』という理由だった。科学的根拠を信頼しているのは約2割にとどまる」とし、「学会として正しい情報提供に努めたい」と説明した。
がんより認知症への罹患を不安視
このほか、認知機能の低下に対するイメージや認知症の病態に関する質問から、医師・メディカルスタッフの約8割が“認知症について一般には正しく理解されていない”と感じていたこと、自分が最もなりたくない疾患として認知症ががんを上回っていたことも明らかになった(一般vs.医師・メディカルスタッフで比較、認知症:47.6%vs. 35.0%、がん:38.5%vs. 25.8%、脳血管疾患:4.9%vs. 18.9%)。これを踏まえて浦上氏は「20年前に行われた調査ではがんが最も罹患したくない疾患だったが、現在では40歳を境にがんより認知症になりたくないと考えている人が多い。男女別でみると、女性のほうが認知症に対し不安視しているが、これは罹患しやすさが影響していると考えられる」と調査内容を分析した。
食材のエビデンス+食事で脳を生き生きさせる
続いて記者会見で認知機能改善につながる食品成分とエビデンスの重要性について解説した鳥羽 研二氏(東京都健康長寿医療センター 理事長)は、「認知症に対し、一つの食材(オリーブオイル、ワイン、魚など)による効果はエビデンスが不十分だが、現在、日本で実施されている食事と認知症に関する3つの大規模臨床試験(久山町研究、大崎研究、NILS-LSA)に共通するのは、地中海食のようにバランスのとれた栄養素を取っている点。しかし、各地域で食されている一つ一つの食材は異なっており、この点は注目に値する」とコメントした。
また、人間の機能に食が与える影響について、「目で見て楽しむ、鼻で香りを嗅ぐ、口で噛むなどの食行動が感覚情報として大脳皮質に作用することで脳の健康につながるという考えがある。食事の栄養素も重要であるが、運動、栄養、生活習慣病、フレイル、意欲や関心、社会参加が影響している点を踏まえ、『食』を“SHOKU”(Sports、Hobby、Oral Frail、Knot、Unfavorable life style) と捉えて、食の認知機能への影響を考えていくことが大切ではないか」と考えを示した。
(ケアネット 土井 舞子)