コロナ禍の献血不足を救う?自己血輸血の効果を検証

新型コロナウイルス感染症の影響はさまざまな側面で現れているが、献血の減少もその1つに挙げられる。保存血液の使用機会の多い外科領域では、現状に鑑みた効率的な保存血液の使用を検討する必要がある。欧米では、血液製剤の使用を減らすために希釈式自己血輸血が活用されている。京都大学の今中 雄一氏ら研究グループは、国内で手術を受けた患者の保存血液使用率について、希釈式自己血輸血を受けた患者と受けていない患者とで比較したところ、自己血輸血を受けている患者では赤血球製剤使用率が約2割少ないことがわかった。本結果は、PLOS ONE誌オンライン版2021年3月10日号に掲載された。
本研究では、日本の行政データベースを基に、2016~2019年に心臓手術(3万2,433例)および大動脈手術(4,267例)を受けた患者を登録し、保存血液使用率と使用量について、希釈式自己血輸血を受けた患者(自己血輸血群)と受けていない患者(コホート群)で比較した。病院情報と患者情報を調整するため、解析には多段階傾向スコアマッチングを用いた。
主な結果は以下のとおり。
・保存血液の中で最もよく使われる赤血球製剤について、心臓手術における自己血輸血群では使用率38.4%(vs.コホート群:60.6%、p<0.001)、使用量は3.5単位(同:5.9単位、p<0.001)と減少効果を認めた。
・同じく、心臓血管手術における自己血輸血群では使用率83.8%(vs.コホート群:91.4%、p=0.037)、使用量は7.9単位(同:11.9単位、p<0.001)と減少効果を認めた。
・副次的転帰である輸血関連有害事象の発生や、術後ICU滞在期間は、両群間に差は認められなかった。
著者らによると、欧米では800mL以上の血液を採取して自己血輸血することが推奨されているが、欧米人に比して体格が小柄な日本人では、そのような大量の採血を行うのは容易ではなく、推奨量も不明であるという。加えて、国内における希釈式自己血輸血の保険適応は2016年で、現段階では十分に浸透しておらず、日本人における効果検証が十分に行われていないのが現状だという。
希釈式自己血輸血は、人工心肺開始前に採取した自己血を室温で保存し、術中に使用するため、凝固関連因子を不活性化することなく正常範囲内で迅速に提供でき、術中の輸血戦略には大きなメリットである。著者らは、「新型コロナウイルスの影響から献血の減少が深刻になっている地域もあり、効率的な保存血液の使用を検討する必要がある。血液が足りない患者に迅速かつ確実に保存血液を送るためにも、希釈式自己血輸血は重要な技術だ」と述べている。
(ケアネット 鄭 優子)
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