大阪大学の荒瀬 尚教授ら研究グループは5月24日、COVID-19 患者由来の抗体解析により、新型コロナウイルスへの感染によって、感染を防御する中和抗体だけでなく、逆に感染性を高める「感染増強抗体」が産生されていることを発見したと発表した。感染増強抗体が新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の特定の部位に結合することで、抗体が直接スパイクタンパク質の構造変化を引き起こし、その結果、新型コロナウイルスの感染性が高くなるというメカニズムで、この感染増強抗体が中和抗体の感染防御作用を減弱させることもわかった。Cell誌オンライン版2021年5月24日号掲載の報告。
感染増強抗体は抗体依存性感染増強(ADE)とはまったく異なる新たなメカニズム
抗体はウイルス感染防御に重要な機能を担う一方で、逆に抗体によって感染が増悪する現象(抗体依存性感染増強:ADE)が見られることがある。ADEはデングウイルスなどで知られており、デングウイルス感染後、異なる型のデングウイルスに感染すると、最初の感染で産生された抗体により重症化する場合がある。こうした抗体による感染増強には、ある種の免疫細胞が発現しているFc受容体が関与していると考えられてきた。
本研究では、COVID-19 患者で産生される抗体の機能を解明するために、患者の免疫細胞から同定された76種類のスパイクタンパク質に対する抗体を解析。その結果、Fc受容体を介した抗体依存性感染増強とは異なり、ウイルス粒子に結合するだけで感染性をFc受容体非依存性に高める抗体が存在することがわかった。また、COVID-19患者における感染増強抗体と中和抗体を測定してその差を調べたところ、重症患者において感染増強抗体が高い傾向が認められた。一方、非感染者においても少量ながら感染増強抗体を保有するケースも見られ、そうした人では、感染やワクチン投与によって感染増強抗体の産生が高まる可能性が考えられるという。
さらに、感染増強抗体が中和抗体によるACE2結合阻害能を減弱させることも明らかになり、感染増強抗体が産生されると、中和抗体の効きが悪くなる可能性があるという。実際、感染増強抗体は新型コロナウイルスのヒト細胞への感染性を顕著に増加させていた。本研究結果は、これまでに知られていた抗体依存性感染増強とはまったく異なる新たなメカニズムが存在することを示唆している。
著者らは、「実際に感染増強抗体が体内で感染増悪に関与しているかはまだ不明であり、今後の詳細な解析が必要」としつつ、「中和抗体が十分効かない変異株に対しては、感染増強抗体が優位に作用する可能性があるため、将来的には感染増強抗体の産生を誘導しないワクチン開発が必要になる可能性がある」と述べている。
(ケアネット 鄭 優子)