子宮頸がんは、発症頻度は高いものの予防や制御のしやすいがんであり、先進国においては経済や社会の発展に伴って、罹患数や死亡数は減少トレンドにある。しかし、感染予防に最も効果的なHPVワクチンの接種が進んでいない日本においてはこの傾向と反する状況にあることが新たな研究で裏付けられた。子宮頸がんの罹患率・死亡率と、人間開発指数(HDI)との関連を調べた中国チームの調査によるもので、Cancer誌オンライン版8月9日号に掲載された。
子宮頸がんの罹患率を国際比較すると日本は4.2%と最も高かった
研究チームは、2018年の子宮頸がんの罹患率と死亡率をGLOBOCANデータベースから抽出し、平均寿命、教育、国民総所得からなる平均的な社会経済的発展の指標である人間開発指数との相関関係を国際比較した。現在のトレンドはCancer Incidence in Five Continents PlusとWHO(世界保健機関)の死亡率データベースから経時的なデータが得られる世界31ヵ国を対象に、Joinpoint回帰法による年間変化率を用いて分析した。さらに、うち27ヵ国を対象に、今後15年間の将来の傾向についてAPCモデルを用いて予測した。
子宮頸がんの罹患率と死亡率を国際比較した主な結果は以下のとおり。
・全体の子宮頸がんの罹患率および死亡率は、人間開発指数と負の相関があった(罹患率r = -0.56、死亡率r = -0.69、p < 0.001)。しかし、日本においては正の相関があった(罹患率r= 0.48、p<0.022、死亡率r= 0.81、 p<0.001)。罹患率と死亡率の双方が正の相関を示したのは日本のほかはブルガリアのみだった。
・世界のほとんどの国では、過去10年間の罹患率(26/31ヵ国)、死亡率(30/31ヵ国)は減少または横ばいであり、減少傾向は効果的な子宮頸がん検診プログラムを実施している国でとくに顕著だった。
・日本の過去10年間(2003~2012年)の平均年間変化率は、罹患率4.2%、死亡率0.5%だった。大半の国がマイナスとなる中、罹患率は31ヵ国最も高く、死亡率は2番めに高かった。
・今後15年間の予測トレンドにおいても、多くの国で減少または横ばい(罹患率19/27ヵ国、死亡率26/27ヵ国)傾向となったが、日本はいずれも上昇予測となった。
著者らは「子宮頸がんの罹患率、死亡率は、社会経済的発展と負の相関を示しており、特に、効果的な子宮頸がん検診プログラムとHPVワクチン接種を実施している国では、発生率と死亡率が横ばいまたは減少傾向にある国が圧倒的に多かった」としている。
本結果は、HPVワクチン副反応のネガティブキャンペーンにより積極的なワクチン接種勧奨の差し控えが続き、ワクチン接種率が1%未満(2002 年度以降生まれの女性)という日本がいかに世界の潮流からかけ離れた危機的な状況にあるかを、改めて浮き彫りにする内容となっている。
(ケアネット 杉崎 真名)