朝食でのタンパク質摂取量は、筋力を維持するために重要であることが示唆されているが、朝食で取るタンパク質の『質』による影響は不明なままである。そこで、国立長寿医療研究センター研究所フレイル研究部の木下 かほり氏、老化疫学研究部の大塚 礼氏らは、朝食時のタンパク質の質と筋力低下の発生率の関連について縦断的研究を行った。その結果、タンパク質の摂取量とは独立して、朝食のタンパク質の質が高いほど高齢者の筋力低下抑制に関連していることが示唆された。この結果はJournal of the American Medical Directors Association誌2022年1月7日号オンライン版に掲載された。
朝食のタンパク質の質と筋力低下との関連を健康な高齢者701例で調査
筋力の低下は、将来の健康障害や死亡を予測する重要な指標であることから、サルコペニアの診断では握力の評価が筋肉量の評価よりも優先されている。本研究は、国立長寿医療研究センターが行っている地域住民対象の長期縦断疫学研究(NILS-LSA)のデータを用いて行われ、ベースライン時点で脳血管疾患、関節炎、パーキンソン病、筋力低下のない60〜83歳の健康な高齢者701例を対象として朝食のタンパク質の質と筋力低下(weakness)との関連を調査した。最大追跡期間は9.2年、最大参加回数は5回だった。
Weaknessは改定アジアサルコペニア診断基準(AWGS
*2019)を基に定義(握力は男性:28kg未満・女性:18kg未満)。朝食のタンパク質の質については、3日間の食事記録から計算したタンパク質消化性補正アミノ酸スコア(PDCAAS)を用いて評価を行った。PDCAASはスコアが高いほどタンパク質の質が高いことを示す。参加者は朝食PDCAASの性別三分位で分類された(低グループ、中グループ、高グループの3群)。PDCAASとweaknessとの関連は、一般化推定方程式(GEE:generalized estimating equation)を用いて分析し、性別、フォローアップ期間、およびベースライン時の年齢、握力、BMI、身体活動、認知機能、教育歴、喫煙歴、経済状況、病歴、昼食と夕食のPDCAAS、3食(朝・昼・夕)のエネルギーとタンパク質摂取量で調整した。
*AWGS:Asian Working Group for Sarcopenia
朝食のタンパク質のPDCAASが高いほどweaknessは発生しない
朝食のタンパク質の質と筋力低下との関連を調査した主な結果は以下のとおり。
・分析された701例のうち男性は53.5%(375例)だった。
・平均追跡期間±SDは 6.9±2.1年、参加した追跡調査の平均回数は3.1±1.1回。累積参加者数は3,019例で282例が weaknessになった。
・PDCAAS低グループを参照にした場合、中グループおよび高グループでのweakness発生の調整オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)は、それぞれ0.71(95%CI:0.43~1.18)および0.50(同:0.29~0.86)だった。
・昼食、夕食、1日の総摂取量においても同様にPDCAASを解析したが、朝食のタンパク質のみが有意な関連を示した。
・朝食の食品群を比較すると、朝食PDCAASが高いグループほど、豆類、魚介類、牛乳・乳製品、卵を多く摂取しており、低いグループほど砂糖・甘味料、油脂類を多く摂取していた。
研究者らは、「今回の発見は、高齢者の筋力維持、すなわち高齢者のQOL維持のための栄養学的アプローチに対して価値ある識見を提供するかもしれない」としている。
(ケアネット 土井 舞子)