双極性障害の治療において、症状転換は臨床的な問題になることが多い。実臨床では、双極性うつ病の治療に抗うつ薬が用いられることがあるが、そのベネフィットについては議論の余地が残っている。これまで双極性うつ病の躁転に焦点を当てた遺伝子研究はほとんど行われておらず、ゲノムワイド関連解析(GWAS)はなかった。台湾・Chang Gung Memorial HospitalのChih-Ken Chen氏らは、双極I型障害の躁転リスクに対するゲノム研究と抗うつ薬の影響について調査を行った。その結果、抗うつ薬治療とrs10262219は、複合的に双極性うつ病後の躁転リスクを増加させることを報告した。Journal of Personalized Medicine誌2022年4月11日号の報告。
対象は、抗うつ薬治療とアウトカムの完全なデータがあり、複数のうつ病エピソードを有する双極性障害患者1,004例。躁症状とうつ症状の臨床評価は、訓練を受けた精神科看護師および精神科医がSchedules for Clinical Assessment in Neuropsychiatry(SCAN)の中国語版を用いて実施した。双極I型障害の診断はDSM-IV基準に従った。躁転は、急性うつ病エピソードの寛解から8週間以内に認められた躁病エピソードと定義した。対象患者の初回うつ病エピソード発症年齢は30.7±12.5歳であり、全患者の56%は女性であった。GWASは746例で実施し、その後255例の独立したグループで複製を行った。
主な結果は以下のとおり。
・GWASにおいて、7番染色体上のrs10262219は、躁転リスクと最も強く関連する対立遺伝子であることが示唆されたが(p=0.000000221)、複製では有意性は認められなかった。
・抗うつ薬治療は、躁転リスクを有意に増加させた(オッズ比:1.7、95%CI:1.3~2.2、p<0.001)。
・ロジスティック回帰分析では、rs10262219のCC遺伝子型(オッズ比:3.0、95%CI:1.7~5.2)および抗うつ薬治療(オッズ比:2.3、95%CI:1.4~3.7)が、複合的な影響を伴う躁転リスクを有意に増加させた(オッズ比:5.9、95%CI:3.7~9.4)。
(鷹野 敦夫)