日本人乳がん患者における新型コロナワクチン2回接種後の中和抗体価が調べられ、95.3%と高い抗体陽転化率が示されたものの、治療ごとにみると化学療法とCDK4/6阻害薬治療中の患者で中和抗体価の低下が示唆された。名古屋市立大学の寺田 満雄氏らによる多施設共同前向き観察研究の結果が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2022 ASCO Annual Meeting)で発表された。
・対象:2021年5~11月にSARS-CoV-2ワクチン接種予定の乳がん患者(Stage 0~IV)
・試験群と評価法:がん治療法ごとに5群に分け(無治療、内分泌療法、CDK4/6阻害薬、化学療法、抗HER2療法)、最初のワクチン接種前と2回目ワクチン接種後(4週後)に血清サンプルを採取、ELISA法で血清中IgG濃度および各変異株に対する中和抗体価を評価した。
・評価項目:
[主要評価項目]2回目ワクチン接種4週後のSARS-CoV-2 Sタンパクに対する血清中IgG濃度
[副次評価項目]各治療群ごとのIgG濃度および抗体陽転化率、野生株・α・δ・κ・ο株に対する中和抗体価、がん治療への影響(休薬および減薬)
主な結果は以下のとおり。
・全体で85例(無治療5例、内分泌療法30例、CDK4/6阻害薬14例、化学療法21例、抗HER2療法15例)が評価対象とされた。
・年齢中央値は62.5(21~82)歳、55.3%が早期乳がん・44.7%が進行あるいは転移を有する乳がん患者だった。新型コロナワクチンの種類は、76.5%がファイザー製・3.5%がモデルナ製だった。
・抗体陽転化率は全体で95.3%。治療法別にみると、無治療・内分泌療法・CDK4/6阻害薬・抗HER2療法では100%、化学療法のみ81.8%だった。
・化学療法群では、無治療群と比較して有意に血清中IgG濃度が低下していた(p=0.02)。
・各変異体に対する中和抗体価は、野生株に対する中和抗体価と比較し有意に低下していた。とくにο株に対しその傾向が強く、低下は治療法によらずみられた。
・CDK4/6阻害薬群では、無治療群と比較して野生株に対する中和抗体価(p<0.01)およびα株に対する中和抗体価(p<0.01)が有意に低下していた。
・化学療法群では、無治療群と比較して野生株に対する中和抗体価(p=0.001)、α株に対する中和抗体価(p<0.001)、およびκ株に対する中和抗体価(p=0.03)が有意に低下していた。
・ワクチン接種による副反応と関連した乳がん治療の休薬または減量はみられず、1例のみ副反応への懸念での休薬があった。
筆頭著者 名古屋市立大学寺田 満雄氏へのインタビュー
今回の結果をどのように解釈されていますか?
おおむね健常者と同等のワクチン効果が得られることがわかり、この点は海外の過去の報告とも一致しています。一方で、CDK4/6阻害薬など現在乳がんでしか使われない治療薬にワクチンの効果を妨げる可能性がある薬剤があることもわかりました。また、変異株ごとに大きく異なる点も注目に値します。実際の感染防御にどれほど影響するかは本研究からはわかりませんが、今後のワクチン接種を考える上で重要なデータとなったと考えています。
乳がん患者のワクチン接種や感染予防について、今回の結果から示唆されたことは?
効果の面でも、安全面でも今回の結果は、乳がん患者さんへのワクチン接種を支持するものとなりました。しかし、CDK4/6阻害薬や化学療法中では抗体がついたとしても中和抗体の力価としては弱い場合もあり、ワクチン接種後だとしても引き続き予防行動は重要であると言えます。
今後の課題、研究の見通しなどがあればお教えください。
なぜCDK4/6阻害薬や化学療法中でワクチン効果が弱まることがあるのかについてはわかっていないことも多くあります。第30回日本乳癌学会学術総会(2022/7/2・土 厳選口演10)では、一部の患者さんでワクチンの効果が十分に得られなかった原因をもう少し考察したデータを発表予定です。がん患者における免疫不全は、COVID-19に限らず重要な課題でありますので、私自身も今後も研究を続けていきたいと思います。
(ケアネット 遊佐 なつみ)