「FGFR1融合遺伝子陽性の骨髄性またはリンパ性腫瘍(8p11骨髄増殖症候群)」という血液がんをご存じだろうか? 本疾患の患者数はきわめて少なく、本邦における新規患者数は年間数例程度で、予後が悪いため、全患者数もきわめて少ない。本疾患に対し、8月8日、インサイト・バイオサイエンシズ・ジャパンは、選択的線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)阻害薬ペミガチニブの適応拡大申請を行ったと発表した。この発表を受け、同社の黒山 祥志氏(プロダクト&コマーシャルストラテジー エグゼクティブ・ディレクター)、鈴川 和己氏(臨床開発 シニアメディカルディレクター)を取材した。
FGFR1融合遺伝子陽性の骨髄性またはリンパ性腫瘍にペミガチニブが高い効果
「FGFR1融合遺伝子陽性の骨髄性またはリンパ性腫瘍」はヒトの8番染色体の短腕11領域(8p11)に位置する
FGFR1遺伝子が切断され、他の染色体に含まれる別の遺伝子が融合して新たな遺伝子を形成することによって引き起こされる。発熱、体重減少、寝汗などの全身症状が認められることがあり、患者の多くで、末梢血または骨髄に好酸球の増加が認められる
1)。
「FGFR1融合遺伝子陽性の骨髄性またはリンパ性腫瘍」の標準治療は確立しておらず、治癒あるいは長期寛解を期待できる治療選択肢は、現在、同種造血幹細胞移植のみである。臨床的な特徴から、慢性期と急性期に大別されるが、診断から12ヵ月で約半数の患者が急性期に移行し、急性期に移行する前に同種造血幹細胞移植を実施できた患者では長期的な寛解が得られるが、慢性期で同種造血幹細胞移植を実施しない場合の全生存期間(中央値)は9ヵ月、急性期の1年生存率は約30%と予後は不良である
2)。
このように「
FGFR1融合遺伝子陽性の骨髄性またはリンパ性腫瘍」は、血液がんの中でも予後不良の疾患であるが、明るい話題も出てきた。昨年12月に開催された米国血液学会(ASH2021)において、本疾患に対し、ペミガチニブが高い抗腫瘍効果を示すことが発表された。この多施設共同第II相試験であるFIGHT-203試験では、前治療で増悪した患者85%、同種造血幹細胞移植歴のある患者9%を含む集団に対し、ペミガチニブの投与によって完全奏効率が64.5%に達し、主要評価項目を達成した
3)。長期予後については今後の解析結果を待つことになる。主な有害事象として、高リン酸血症、脱毛、下痢が認められた。
この国際共同治験には近畿大学病院、NTT東日本関東病院も参加しており、日本人の症例も数例が含まれている。本試験結果等に基づいて、8月8日、ペミガチニブが
FGFR1融合遺伝子陽性の骨髄性またはリンパ性腫瘍に対し、適応拡大が申請されたことが発表された。
このような画期的な治療薬ではあるが、患者がこの治療にアクセスするには課題がある。血液内科医においても「
FGFR1融合遺伝子陽性の骨髄性またはリンパ性腫瘍」の認知度は低い。患者も少なく、これまでは治療する術が限られていたが、FGFR阻害薬という同種造血幹細胞移植以外の治療選択肢の登場によって本疾患への関心が高まり、恩恵を受ける患者が増えるものと期待される。
(ケアネット 藤原 健次)