多くの人は2歳までにRSウイルス(RSV)に感染する。生涯を通じて再感染することがあり、通常は症状が軽いもしくは無症状とされている。しかし、高齢者や合併症を有する患者では、下気道疾患が引き起こされ、基礎疾患の増悪、入院、死亡につながる可能性がある。先進国の60歳以上の成人においては、2019年にRSV感染が約520万例の急性呼吸器感染症、約47万例の入院、約3万3千例の院内死亡をもたらしたと推定されている1)。しかし、現在までに承認されているRSVワクチンは存在しない。そこで、宿主細胞との膜融合に関与するfusion(F)タンパク質について、立体構造を安定させた融合前(prefusion)Fタンパク質を含有するワクチンが開発され、60歳以上の成人を対象とした第III相試験において、RSVに関連する下気道疾患および急性呼吸器感染症の予防効果が示された。本研究はAReSVi-006 Study Groupによって実施され、結果はイタリア・フェラーラ大学のAlberto Papi氏らによって、NEJM誌2023年2月16日号で報告された。
60歳以上の成人2万4,966例を対象に国際共同プラセボ対照第III相試験を実施した。RSVワクチン(RSVPreF3 OA)群またはプラセボ群に1:1の割合で無作為に割り付け、単回接種した。主要評価項目は、RSV流行期間中における逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)で確認されたRSVに関連する下気道疾患※1の予防効果であった。主要評価項目の達成基準は、有効率推定値の96.95%信頼区間[CI]下限値が20%を上回った場合とした。また、RSVに関連する重症下気道疾患※2および急性呼吸器感染症※3に対する有効性も評価した。RSVの分類(A型、B型)別の解析も行った。安全性について、特定有害事象(一般的にワクチン接種に関連するとされる有害事象)はRSVワクチン群879例、プラセボ群878例を対象として評価し、非特定有害事象は接種を受けたすべての被験者を対象として評価した。
※1:2つ以上の下気道症状/徴候(少なくとも1つの下気道徴候を含む)、または3つ以上の下気道症状が24時間以上持続
※2:下気道疾患のうち、臨床症状または治験責任医師による評価で重症とされた、または支持療法を受けたもの
※3:2つ以上の呼吸器症状/徴候、または1つ以上の呼吸器症状および1つ以上の全身症状/徴候が24時間以上持続
主な結果は以下のとおり。
・追跡期間中(中央値6.7ヵ月)、RT-PCRで確認されたRSVに関連する下気道疾患に対するRSVワクチンの有効率は82.6%(96.95%CI:57.9~94.1)であり、96.95%CI下限値が20%を上回ったため、主要評価項目が達成された。RSVに関連する下気道疾患は、RSVワクチン群7例(1.0例/1,000人・年)プラセボ群40例(5.8例/1,000人・年)に認められた。
・RSVに関連する重症下気道疾患に対するRSVワクチンの有効率は94.1%(95%CI:62.4~99.9)であった。RSVに関連する重症下気道疾患は、RSVワクチン群1例(0.1例/1,000人・年)プラセボ群17例(2.5例/1,000人・年)に認められた。
・RSVに関連する急性呼吸器感染症に対するRSVワクチンの有効率は71.7%(95%CI:56.2~82.3)であった。RSVに関連する急性呼吸器感染症は、RSVワクチン群27例(3.9例/1,000人・年)プラセボ群95例(13.9例/1,000人・年)に認められた。
・RSV A型、B型に対するRSVワクチンの有効率は、RSVに関連する下気道疾患がそれぞれ84.6%、80.9%であり、RSVに関連する急性呼吸器感染症がそれぞれ71.9%、70.6%であった。
・特定有害事象はRSVワクチン群71.9%(632/879例)、プラセボ群27.9%(245/878例)に認められ、注射部位反応として疼痛が多く(それぞれ60.9%、9.3%)、全身反応として疲労が多かった(それぞれ33.6%、16.1%)。特定有害事象の解析対象集団における接種30日以内の非特定有害事象は、それぞれ14.9%、14.6%に認められ、Grade3はいずれも1.4%であった。
本試験の結果について、著者らは「60歳以上の成人に対するRSVPreF3 OAワクチンの単回接種は、RSVの分類(A型、B型)や基礎疾患の有無にかかわらず、RSVに関連する下気道疾患(重症含む)、急性呼吸器感染症に対する予防効果を示し、安全性に関する懸念は認められなかった」とまとめている。なお、本試験はGlaxoSmithKline Biologicalsの支援により実施され、中間解析の結果を基にグラクソ・スミスクラインは、60歳以上の成人を対象としたRSVに関連する下気道疾患の予防を目的として、2022年10月に厚生労働省へ製造販売承認申請している。
(ケアネット 佐藤 亮)