HER2低発現乳がんの疫学的特徴や予後の観点から、HER2ゼロ乳がんと臨床的に異なるサブタイプと言えるのだろうか。今回、米国・シカゴ大学のDaniel S. Peiffer氏らが米国がんデータベースを用いて約114万人の大規模コホート研究を実施したところ、HER2低発現の割合は、ヒスパニック系患者および非ヒスパニック系黒人患者が、非ヒスパニック系白人患者と比べてわずかに低く、また、全生存期間(OS)はHER2低発現乳がんのほうがHER2ゼロ乳がんよりわずかに良好だった。これらの結果から、HER2低発現乳がんとHER2ゼロ乳がんの治療反応性と長期予後が類似している可能性が示唆された。JAMA Oncology誌オンライン版2023年2月23日号に掲載。
この後ろ向きコホート研究は、米国がんデータベースから、2010年1月1日~2019年12月31日に浸潤性乳がんと診断され、HER2陰性乳がんでIHC結果が得られた米国内の患者113万16例を対象に実施された。HER2低発現は、IHCスコア1+、またはIHCスコア2+かつISH陰性とし、HER2ゼロはIHCスコア0と定義した。2021年11月1日~2022年11月30日のデータを解析した。主要評価項目は、HER2低発現乳がんに対するHER2ゼロ乳がんのOSと病理学的完全奏効とした(年齢、性別、人種および民族、Charlson-Deyo Comorbidity Indexスコア、治療施設の種類、腫瘍グレード、腫瘍組織型、ホルモン受容体の状態、がんの病期について調整)。
主な結果は以下のとおり。
・113万16例(平均年齢:62.4歳、女性99.1%、非ヒスパニック系白人78.6%)のうち、HER2ゼロ乳がんが39万2,246例(34.5%)、HER2低発現乳がんが74万3,770例(65.5%)だった。
・エストロゲン受容体高発現は、HER2低発現の割合の増加と関連していた(調整オッズ比[aOR]:10%増加当たり1.15)。
・HER2低発現乳がんと診断された割合は、非ヒスパニック系白人患者(66.1%)と比較して、非ヒスパニック系黒人患者(62.8%)およびヒスパニック系患者(61.0%)では少なかったが、非ヒスパニック系黒人患者ではトリプルネガティブ乳がんの割合の違いやほかの交絡因子が介在していた。
・多変量解析では、病理学的完全奏効率がHER2低発現乳がんではHER2ゼロ乳がんと比べてわずかに低かった(aOR:0.89、95%信頼区間[CI]:0.86~0.92、p<0.001)。
・HER2低発現はまた、StageIII(調整ハザード比:0.92、95%CI:0.89~0.96、p<0.001)およびStageIV(同:0.91、95%CI:0.87~0.96、p<0.001)トリプルネガティブ乳がんでのわずかなOS改善と関連していたが、これは5年OSのわずかな増加(StageIII:2.0%、StageIV:0.4%)にしかならなかった。
この大規模後ろ向きコホート研究では、HER2低発現とHER2ゼロの乳がんの予後の差はわずかだった。著者らは「これらの結果は、今後HER2低発現乳がんの予後がHER2低発現に関連する生物学的特性の本質的な違いではなく、HER2を標的とした抗体薬物複合体によって左右されることを示唆する」としている。
(ケアネット 金沢 浩子)