双極性障害や統合失調症は、複雑な精神疾患であり、環境的要因と遺伝的要因(母性遺伝を含む)の両方が影響している可能性がある。これまで、いくつかの研究において、ミトコンドリア染色体の遺伝子変異と双極性障害および統合失調症との関連が調査されているが、研究結果は同一ではなく、参加者は欧州の患者に限定されていた。岐阜大学のRyobu Tachi氏らは、日本人集団におけるミトコンドリア染色体のゲノムワイドな遺伝的変異と双極性障害、統合失調症、精神疾患との関連を調査した。International Journal of Bipolar Disorders誌2023年7月21日号の報告。
患者および遺伝子変異の品質管理を行ったうえで、日本人420例を対象にミトコンドリア遺伝子変異(マイナーアレル頻度[MAF]>0.01、変異例:45例)と双極性障害、統合失調症、精神疾患との関連を調査した。対象の内訳は、双極性障害(BD群)51例、統合失調症(SZ群)172例、健康対照者(HC群)197例。
主な結果は以下のとおり。
・ミトコンドリアの遺伝的変異のうち、多重比較で補正した後、双極性障害では3つ(rs200478835、rs200044200、rs28359178 のNADHデヒドロゲナーゼ上または近位)、精神疾患では1つ(rs200478835)の遺伝子変異との有意な関連が認められた(PGC=0.045-4.9×10-3)。
・とくに、ミスセンス変異体であるrs200044200のマイナーGアレル遺伝子を有する人は、BD群(MAF=0.059)のみでみられ、HC群(MAF=0)ではみられなかった(オッズ比:∞)。
・3例の患者は、精神医学的疾患の家族歴を有していた。
著者らは「NADHデヒドロゲナーゼ関連遺伝子のミトコンドリア遺伝的変異が、エネルギー産生のメカニズムを介して日本人の双極性障害や精神疾患発症に関与している可能性が示唆された」とまとめている。
(鷹野 敦夫)