アルツハイマー病リスクが高い人の特定は、予後や早期介入に重要である。縦断的な疫学研究では、脳の不均一性と加齢による認知機能低下が観察されている。また、脳の回復力は、予想以上の認知機能として説明されてきた。この「回復力(resilience)」の構造は遺伝的要因や年齢などの個人的特性と相関することが示唆されている。さらに、アルツハイマー病の病因とミトコンドリアの関連がこれまでのエビデンスで確認されているが、遺伝学的指標(とくにミトコンドリア関連遺伝子座)を通じて脳の回復力を評価することは難しかった。
中国・華中農業大学のXuan Xu氏らは、多遺伝子リスクスコア(PRS)により個人の脳の回復力レベルは特徴付けられるか、ミトコンドリア関連遺伝子座がPRSのパフォーマンスを改善し、アルツハイマー病の予防や診断において信頼性の高い指標となりうるかを調査した。その結果、脳の回復力を特徴付けるPRSの能力が確認され、さらに、いくつかのミトコンドリア関連遺伝子座を組み込むことで、脳の回復力の評価におけるPRSのパフォーマンスが向上する可能性が示唆された。Journal of Advanced Research誌オンライン版2023年3月14日号の報告。
探索サンプル1,550件および独立した検証サンプル2,090件を用いて、生物学的および統計学的側面からミトコンドリア関連遺伝子座を含む9種のPRSを構築し、それらをゲノムワイド関連解析(GWAS)から得られた既知のアルツハイマー病リスク遺伝子座と組み合わせた。個人の脳の回復力レベルは、8つの病理学的特徴を用いた線形回帰モデルにより包括的に評価した。
主な結果は以下のとおり。
・PRSは、脳の回復力レベルを特徴付けることが確認された(ピアソン相関検定:Pmin=7.96×10-9)。
・少数のミトコンドリア関連遺伝子座を組み込むと、PRSモデルのパフォーマンスを効率的に改善できることが示唆された(P値改善範囲:1.41×10-3~6.09×10-6)。
・いくつかのミトコンドリア関連遺伝子座を組み込むことで、脳の回復力を評価する際のPRSパフォーマンスが有意に向上する可能性が示唆された。
・脳の回復力に重要な役割を果たしている可能性があるミトコンドリアを標的にすることにより、アルツハイマー病の予防や治療の新たな可能性につながることが示唆された。
(鷹野 敦夫)