一般社団法人アカデミア発バイオ・ヘルスケアベンチャー協会が設立記念シンポジウムを10月18日に開催した。本協会は前身の大学発バイオベンチャー協会の趣旨を引継ぎ、バイオベンチャーやスタートアップの振興と産官学連携の推進を目的に今年5月22日に設立された。本協会の理事長である森下 竜一氏(大阪大学寄付講座 教授)によると、医療イノベーション推進のためには業界をワンボイスで進めて行く必要があり、そのためにさまざまな意見を取り込みながらアカデミア発のベンチャー振興の政策提言を令和6年半ばを目途に取りまとめていく予定だという。
アカデミア・ベンチャーと製薬企業の連携は革新的新薬開発の必須条件
近年、日本の新薬開発は世界に後れを取っている。これまでは製薬企業が創薬のすべてを担ってきたが、医薬品開発の複雑性・専門性が高まることで自前主義が成り立たなくなり、世界的にも水平分業が進んでいる。そこで、特定領域に特化した技術を有するアカデミアや医療ベンチャーとともにエコシステムを構築し、協業によるイノベーション創出が求められるようになった。官公庁を代表し、浅沼 一成氏(厚生労働省医政局長)が『医療イノベーション推進のための課題とバイオ・ヘルスケアベンチャー支援策』と題し、現状の医薬品開発の動向や創薬開発の問題点などを取り上げ、国内製薬企業と医療系ベンチャーとの結びつきの重要性と将来展開について説明した。
浅沼氏は国内の創薬にかかる課題として「現状、国内創薬スタートアップは未成熟で、スタートアップが開発した新薬は承認・上市には至っておらず、臨床ステージに入っている新薬候補物質の導出も少ない」と指摘。一方で、大型契約を成立させているスタートアップがあるものの外資系製薬企業との契約に偏っていることから、「“スタートアップの買収が起こらない→メガファーマが育たない→買収ができない”という負のスパイラルに陥っているのではないか」と製薬企業側の課題を示した。また、「日本政府は医薬品産業が向かうべきビジョンや戦略を打ち出してきたが、諸外国と比較すると中長期的な戦略を示せていない」と、企業側だけの問題ではないことも明らかにし、政府側に求められる対応として、「新規モダリティの創出支援(一丸となった総合的な戦略を作成ほか)や創薬エコシステムの構築のように、中長期的な戦略を策定し、実効性のある取り組みを進めるべき」と方向性を示した。
来年度の政府の取り組みは『スタートアップ育成5ヵ年計画』などに基づき、アカデミア・ベンチャーと製薬企業のお見合いのようなビジネスマッチング・オープンイノベーションの促進を図り、ドラッグラグ・ロスの解消に向けて海外リソースの呼び込みを含め、ベンチャーが開発する革新的医薬品の導入促進を行うなど、医療系スタートアップ・エコシステム形成を図っていく。
なお、本協会の設立趣旨ならびに活動内容は以下のとおり。
【設立趣旨】
1.アカデミア発バイオ・ヘルスケアベンチャーの推進を図り、その研究活動・事業を通じて福祉への貢献、経済・産業の活性化を図ることを主たる目的とする
2.会員相互の親睦を深め、情報交換や交流の場を提供し、会員の研究開発力の向上や人間関係の形成を促進すること
3.社会的な課題に対する啓発活動や研究、政策提言などを通じて、社会的な意義や価値を追求すること
【活動内容】
1.アカデミア発バイオ・ヘルスケアベンチャー個々の企業が抱える悩みや問題点の解決に向けた関連行政機関等への提言
2.アカデミア発バイオ・ヘルスケアベンチャーの発展に必要とされる制度および事業の研究・情報提供・情報交換および交流活動
3.研究会、講演会、セミナーその他の会合の開催
4.図書の作成および刊行その他研究成果の発表
5.国内外の関係機関および研究機関との連携および協力
(ケアネット 土井 舞子)