統合失調症患者は、そうでない人よりも認知症発症リスクが高いことが、臨床研究で報告されている。しかし、過去の神経病理学的研究では、統合失調症患者におけるアルツハイマー病の発症率は対照群と差異がないことが示唆されている。これらの一貫性のない結果は、アルツハイマー病以外の認知症を包含したことが原因である可能性があるが、高齢統合失調症患者を対象とした現在の神経病理学的分類に基づく臨床病理学的研究は、ほとんど行われていなかった。名古屋大学の荒深 周生氏らは、高齢統合失調症患者における認知症発症の神経病理学的根拠を調査するため、本研究を実施した。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2023年9月14日号の報告。
高齢統合失調症患者32例を対象に、標準化された病理学的手法を用いて、システマティックに脳検査を実施した。認知症に関連する神経病変の重症度の分析には、標準化された半定量的評価法を用いた。神経病理学的基準を満たす患者を除外した後、認知症を発症した患者と発症しなかった患者の臨床病理学的変数を比較し、潜在的な差を特定しようと試みた。
主な結果は以下のとおり。
・病理学的基準を満たした患者は7例であり、その内訳は、アルツハイマー病3例、嗜銀顆粒性認知症(AGD)2例、レビー小体型認知症1例、AGD/進行性核上性麻痺(PSP)1例であった。
・神経病理学的所見が認められなかった25例のうち、10例は認知症に罹患していたが、残りの非認知症患者15例と比較し、臨床病理学的所見に差は認められなかった。
著者らは、「高齢統合失調症患者では、2つのタイプの認知症がみられる。すなわち、1つは神経変性疾患併発タイプ、もう1つは現在の分類に基づく病理学的基準を満たさないタイプ」であるとし、「高齢統合失調症患者における認知症発症の神経生物学的側面を理解するためには、認知症発症を従来の認知症関連神経病理の併存疾患として分析するだけでは不十分であり、さらなる臨床病理学的研究が必要である」とまとめている。
(鷹野 敦夫)