新型コロナによる多臓器不全のメカニズム、iPS細胞由来オルガノイドで解明/阪大ほか

提供元:ケアネット

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公開日:2023/10/27

 

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染によって起きる特徴的な症状の1つとして全身の血管で血栓が形成され、多臓器不全につながることは知られていたが、そのメカニズムについては明らかではなかった。大阪大学ヒューマン・メタバース疾患研究拠点(WPI-PRIMe)の武部 貴則氏ほか、東京医科歯科大学、タケダ-CiRA共同研究プログラム(T-CiRA)、滋賀医科大学、名古屋大学の共同研究グループは、ヒトiPS細胞由来の血管オルガノイド※1を作成し、それを用いたin vitroおよびin vivo実験で、補体代替経路※2と呼ばれる分子経路群が血管炎や血栓の原因となりうることを発見した。さらに、補体代替経路を増幅するD因子に着目し、D因子を阻害する半減期延長型抗D因子抗体を用いることで、SARS-CoV-2感染モデルの血管炎症状の軽減に成功した。本研究結果は、Cell Stem Cell誌2023年10月5日号に掲載された。

 COVID-19が重症化すると、免疫細胞や血小板が活性化し血栓の形成が促進され、サイトカインストームを引き起こす。研究グループは、SARS-CoV-2感染による血管炎、血栓形成が生じる過程の詳しいメカニズムを解明するため、SARS-CoV-2感染によって生じる血管炎に類似した症状を再現することが可能なヒトiPS細胞由来血管オルガノイドモデルを開発することに成功した。それを用いてin vitroおよびin vivoで実験を行った。

 主な結果は以下のとおり。

・オルガノイドを用いたin vitro感染実験による網羅的遺伝子発現解析や、重症患者の血液検体の網羅的タンパク質発現解析データなどから、補体代替経路が血管炎の症状が強い人でとくに上昇していることを認めた。
・オルガノイドを事前に移植し、ヒトのSARS-CoV-2感染状態を模倣する血管を再構成した動物を用いて、補体代替経路を薬理学的に阻害することで、血管炎・血栓形成の症状を緩和できることを発見した。
・上記の結果から、補体代替経路を阻害する薬剤があれば、血管炎の治療につながる可能性があると仮説を立て、補体代替経路の構成成分でもあるD因子に着目し、網内系に移行した抗体がリサイクルされる仕掛けを施した半減期延長型抗D因子抗体を用いて効果を評価した。
・サルのSARS-CoV-2感染モデル試験を用いて、抗D因子抗体が血管炎に重要な経路を阻害することで、補体の活性化を抑制し、免疫反応を弱め、血管保護効果を示すことを実証した。

 本研究では、SARS-CoV-2感染によって生じる血管炎の症状を再現するヒト血管オルガノイドによって再現した、新しい疾患モデルが確立された。これにより、SARS-CoV-2をはじめ血管に病変が出るさまざまなウイルスによる感染症の研究への有効活用が期待される。また、COVID-19重症患者データと感染症モデルを組み合わせることにより、補体代替経路を起点とする血管炎のメカニズムを解明した。本成果により、補体代替経路を指標とした診断技術の構築や、血管炎・血栓形成を予防する新たな治療薬の開発につながることが期待される。

※1 オルガノイドとは、幹細胞の自己組織化能力を活用して創出される、臓器あるいは組織の特徴を有する立体組織のこと。
※2 補体は、抗体が異物を捉えた後に、抗体の働きを補う役割をする。補体の活性化の経路にはいくつかあり、補体代替経路は抗体がまだ作られていない場合の緊急の経路と考えられている。

(ケアネット 古賀 公子)