アレクシオンファーマは2024年2月15日、「新たな治療薬『ボイデヤ』、C5阻害剤への国内初の併用薬が変える『発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)』治療の展望 ―持続する貧血・疲労感、定期的な輸血などPNH患者さんのアンメットニーズに対する個別化治療の提供―」と題したメディアセミナーを開催した。
同セミナーでは、血管内溶血およびヘモグロビン尿を特徴とする希少疾患、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)について、西村 純一氏(大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学 招聘教授)が「発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)を取り巻く環境と治療の現状と課題」、小原 直氏(筑波大学 医学医療系 医療科学 教授)が「国際共同第III相試験(ALPHA試験)の結果に基づいた『ボイデヤ』への今後の期待」と題し、それぞれ講演を行った。その中で、西村氏からはPNHの病態、診断基準、治療戦略が、小原氏からはALPHA試験の解説およびボイデヤ(一般名:ダニコパン)の処方経験について述べられた。
PNHの病態
PNHは、溶血とそれに続くヘモグロビン尿、血栓症、骨髄不全を3大症状とする。PNHでは血管内溶血が一酸化窒素(NO)低下を誘発することに伴う諸症状(肺高血圧症、男性機能障害、嚥下痛・嚥下困難、腹痛など)が生じ、PNHに特徴的な合併症の慢性腎臓病と血栓症は、それぞれ複数の機序が複合的に相まって引き起こされる。
PNHの診断と診断基準の改訂
PNHの診断では、溶血所見(血清LDH値の上昇、網状赤血球増加、間接ビリルビン値上昇など)がある患者にPNHの疑いがあれば、フローサイトメトリー検査を実施する。診断基準は2022年に改訂され(『発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド 令和4年度改訂版』)、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型タンパク質の欠損赤血球(PNHタイプ赤血球)の検出と定量において、PNHタイプ赤血球(II型+III型)が1%以上、かつ血清LDH値が正常上限の1.5倍以上の場合は「A.検査初見」を満たすDefinite(確定診断の要件)、それ以外の所見・症状は「B.補助的検査所見」「C.参考所見」として記載されることになった。溶血所見に基づいた重症度分類は、従来中等症に記載されていた臓器症状が、令和4年度改訂版では割愛された。
治療戦略
治療の選択に関しては、溶血とそれに伴う血栓症、骨髄不全、それぞれについて必要な治療を別個に判断することが原則である。終末補体阻害薬であるソリリス(一般名:エクリズマブ)投与により、補体活性化経路中のC5転換酵素がブロックされて血管内溶血は止まるため、PNHの予後を大きく決定付ける血栓症は大幅に減少するが、上流の補体活性化により血管外溶血という新たな問題が生じる。
西村氏は、生命予後に大きく関わる血管内溶血をしっかり抑えることを第一に考えつつ、近位補体阻害薬のボイデヤで血管外溶血も同時に抑えていく治療戦略を提唱した。
ALPHA試験
続く講演で小原氏は、ボイデヤが血管外溶血を抑制することを期待して開発されたこと、補体(C5)阻害薬による適切な治療を行っても十分な効果が得られない場合に併用投与することを述べた。このボイデヤについて実施されたのが、「ALPHA試験(ALXN2040-PNH-301試験):ラブリズマブ又はエクリズマブ投与下で血管外溶血が認められるPNH患者を対象とした国際共同第III相試験」である。
同試験では、ユルトミリス(一般名:ラブリズマブ)/ソリリス投与後も貧血が残存する(Hb濃度が9.5g/dL以下、かつ網状赤血球数が120×10
9/L以上)、つまり造血に問題はないが血管外溶血が推測される患者を、ボイデヤ群57例、プラセボ群29例に無作為に割り付け、12週間の二重盲検期、12週間の継続投与期、その後の延長投与期にわたり投与を行った。
主要評価項目の投与12週時点のHb濃度のベースラインからの変化量は、ボイデヤ群は2.940g/dL(SE:0.2107)であったが、プラセボ群は0.496g/dL(SE:0.3128)と、ほとんど変化せず、ボイデヤ群のほうが貧血の改善も速やかであることが示された。同様の結果は日本人集団でも得られた。主な副次評価項目である、投与12週時点のHb濃度が輸血なしで2g/dL以上増加した患者の割合などについても、全体集団、日本人集団ともに良好な結果が得られた。
ボイデヤ群の有害事象は、全体集団ではGrade3が10例、Grade4が1例、試験薬投与中止に至った有害事象が3例(肝酵素上昇、アラニンアミノトランスフェラーゼ増加およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ増加、血中ビリルビン増加および膵炎、各1例)にみられた。Grade3、Grade4の有害事象は、日本人集団では認められなかった。
ボイデヤの処方経験
小原氏は、PNHと診断されてソリリスを投与され、LDHは著明に低下したが貧血の改善は乏しく、数ヵ月に1回の輸血を要し、ユルトミリスに変更後も貧血の改善も輸血の頻度も改善しなかった40代男性の例を紹介し、ボイデヤの併用によってHb濃度の改善、輸血の脱却、活動性の向上が得られたことを報告した。同氏は「ユルトミリスまたはソリリス投与下でボイデヤを追加経口投与することにより、血管内溶血の抑制を維持したまま、血管外溶血に伴う貧血の改善・抑制が可能であることが示された」と述べて講演を締めくくった。
補体(C5)阻害薬で治療中のPNH患者が抱える貧血など、これまで臨床的な課題とされてきた血管外溶血に対して、ボイデヤという新たな解決策が示された。今後、患者の負担軽減につながることに期待したい。
(ケアネット)