市中誤嚥性肺炎、嫌気性菌カバーは必要?

提供元:ケアネット

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公開日:2024/03/07

 

 誤嚥性肺炎の治療において、本邦では嫌気性菌カバーのためスルバクタム・アンピシリン(SBT/ABPC)などが用いられることがある。しかし、海外では誤嚥性肺炎の0.5%にしか嫌気性菌が認められなかったという報告もあり1)、米国胸部学会/米国感染症学会(ATS/IDSA)の市中肺炎ガイドライン2019では、嫌気性菌カバーは必須ではないことが記載された2)。また、2023年に実施されたシステマティックレビューにおいて、嫌気性菌カバーの有無により、誤嚥性肺炎患者に転帰の差はみられなかったことも報告されている3)。しかし、本レビューに含まれた論文は3本のみであり、サンプルサイズも小さく、結論を導くためには大規模研究が必要である。そこで、カナダ・クイーンズ大学のAnthony D. Bai氏らは、約4千例の市中誤嚥性肺炎患者を対象とした多施設後ろ向きコホート研究を実施した。その結果、嫌気性菌カバーは院内死亡リスクを低下させず、C. difficile大腸炎リスクを上昇させた。本研究結果は、Chest誌オンライン版2月20日号で報告された。

 研究グループは、カナダの18施設において市中誤嚥性肺炎で入院した患者のうち、入院から48時間以内に抗菌薬が投与された3,999例を対象とした後ろ向き研究を実施した。セフトリアキソン、セフォタキシム、レボフロキサシンが投与された患者を非カバー群(2,683例)とした。アモキシシリン・クラブラン酸、モキシフロキサシンが投与された患者、非カバー群の薬剤とクリンダマイシンまたはメトロニダゾールが併用された患者を嫌気性菌カバー群(1,316例)とした。主要評価項目は院内死亡、副次評価項目はC. difficile大腸炎の発現、治療開始後のICU入室であった。なお、両群間の背景因子を調整するため、傾向スコアオーバーラップ重み付け法を用いて解析した。
※:本研究が実施されたカナダではSBT/ABPCが使用できないため、SBT/ABPCに相当するものとした。

 主な結果は以下のとおり。

・入院期間中央値は非カバー群6.7日、嫌気性菌カバー群7.6日であった。
・院内死亡率は非カバー群30.3%(814例)、嫌気性菌カバー群32.1%(422例)であった。
・傾向スコアによる背景因子の調整後の院内死亡リスクの群間差は1.6%(95%信頼区間[CI]:-1.7~4.9)であり、両群間に有意差は認められなかった。
C. difficile大腸炎の発現率は非カバー群0.2%以下(5例以下)、嫌気性菌カバー群0.8~1.1%(11~15例)であった。
・傾向スコアによる背景因子の調整後のC. difficile大腸炎の発現リスクの群間差は1.0%(95%CI:0.3~1.7)であり、嫌気性菌カバー群で有意にリスクが高かった。
・治療開始後のICU入室率は非カバー群2.5%(66例)、嫌気性菌カバー群2.7%(35例)であった。

 著者らは、本研究には抗菌薬を必要としない誤嚥性肺炎患者が含まれる可能性があること、院外死亡や再入院の評価ができなかったこと、多くの患者で肺炎の原因菌が特定できていなかったことなどの限界が存在することを指摘しつつ、「誤嚥性肺炎において、嫌気性菌カバーは院内死亡率を改善せず、C. difficile大腸炎リスクを上昇させることから不要である可能性が高いと考えられる」とまとめた。

(ケアネット 佐藤 亮)