小林製薬サプリ摂取者、経過観察で注意すべき検査項目・フォローの目安

提供元:ケアネット

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公開日:2024/04/09

 

 小林製薬が販売する機能性表示食品のサプリメント『紅麹コレステヘルプ(以下、サプリ)』による腎機能障害の発生が明らかとなってから約2週間が経過した。先生の下にも本サプリに関する相談が寄せられているだろうか。日本腎臓学会が独自で行った本サプリと腎障害の関連について調査したアンケートの中間報告1)から、少しずつサプリ摂取患者の臨床像が明らかになってきている。

 そこで今回、日本腎臓学会副理事長である猪阪 善隆氏(大阪大学大学院医学系研究科腎臓内科学 教授)に、摂取患者を診療する際に注意すべき点、患者から相談を受けた場合の対応について緊急取材した。猪阪氏は全国の医師に対し、「医師が診療する際に注意すべき点として、電解質異常や腎機能障害が改善されない症例は専門医へ紹介してほしい。また、患者に対して、“過度な心配は不要”であることを伝えてほしい」と呼び掛ける。その理由は―。

Fanconi(ファンコニー)症候群

 日本腎臓学会のアンケート中間報告によると、今回報告された症例の多くにFanconi症候群を疑う所見が目立っていたと示唆されている。このFanconi症候群とは、腎臓専門医でも診療経験を有する医師は少ない、比較的まれな疾患だという。本疾患の概要を以下に示す。

◆疾患概念・定義:
近位尿細管の全般性溶質輸送機能障害により、本来近位尿細管で再吸収される物質が尿中への過度の喪失を来す疾患群で、ブドウ糖(グルコース)、重炭酸塩、リン、尿酸、カリウム、一部のアミノ酸などの溶質再吸収が障害され、その結果として代謝性アシドーシス、電解質異常、脱水、くる病などを呈する2)

◆原因:
原因は多岐にわたり、発症年齢も乳児期から成人と多様。先天性のものではDent病、ミトコンドリア脳筋症をはじめ、原因不明の症例が国内では多く、後天性(二次性)のものとしては悪性腫瘍やネフローゼ症候群のほか、一部の抗腫瘍薬(シスプラチンなど)、バルプロ酸、抗ウイルス薬などの薬剤の使用が起因している2)。近年ではNSAIDsによる報告もみられる。

◆主な症状:
代謝性アシドーシスの特徴ともいえる疲労や頭痛のほか、筋力低下や骨の痛みなど。

 猪阪氏は本病態とアンケートの中間報告を総合し、「今回寄せられた症例の場合、1/4の患者にステロイドが使用されていた。今回は専門医による対応であったことから、間質性腎炎の診断・治療に準じて腎生検を行い、炎症レベルを考慮しての治療であった。一般内科の医師の場合には、まず被疑薬の中止を行い、注意深く経過観察を続けてもらいたい」と治療方法について説明した。

中間報告後に明らかになった電解質異常

 上述したFanconi症候群のような所見を疑うには、日常診療で行っている尿検査や生化学検査、血液学検査をオーダーするなかで、電解質の項目に注意を払う必要があると同氏は強調した。「集まった症例をみると電解質異常が多くみられた。カリウム(K)値は本疾患においても低K血症による不整脈発症の観点から重要ではあるが、今回とくに注意が必要なのは、一般的な血液検査に含まれないリン(P)や重炭酸イオン(HCO3-)の変化」と同氏は話した。その理由として「ナトリウム(Na)値やK値は日頃から注意すべき項目として目が行きがちだが、血清P値や血液ガス分析によるHCO3-濃度の測定は、非専門科では日常的に行う検査ではないので、ぜひ意識してオーダーし、経過を診ていただきたい」と述べ、「サプリの摂取を中止しても代謝性アシドーシスの状態が続いている場合もあるため、その場合には専門医の診断が必要」と説明した。また、「電解質異常がどこまで完全に回復してくるのかは今後の検証が待たれる」ともコメントした。

電解質異常が残るような症例は専門医へ

 専門医へ紹介するタイミングについて、同氏は「本サプリの問題が報道される前の時点では、腹痛などの症状を訴える→症状に応じた検査を実施→問診でサプリ摂取が判明→腎機能検査という診断の流れもあったようだ。しかし、今はサプリの影響が強く疑われ、すでに不安を抱えた患者さんは一通り受診を終えられているかと思う」と前置きをしたうえで、「被疑薬を中止した場合、約2週間で改善する傾向にある。中止したことで腎機能の改善がみられる場合は、そのままかかりつけ医での経過観察で問題ないため、正常値まで改善するのをフォローしてほしい。しかし、腎機能が十分改善しない場合や、上述のとおり電解質異常が残る場合には、早めに専門医へ紹介してほしい。また、症状が重症と考えられる患者についても同様」と紹介すべき患者の見極め方を説明した。

 このほか、アンケート結果では尿の異常として血尿が報告されているが、これについては「サプリ摂取による腎障害が原因で生じたものではなく、潜在的にあった原疾患による可能性も考えられる」と説明した。また、本サプリを服用して来院した患者であっても、それ以外のサプリや薬剤を服用している可能性の高い患者も多いため、「原因をサプリに絞り込まずに鑑別していくことが必要」とも補足した。

 なお、アンケート結果は5月に取りまとめて報告する予定であり、今年6月28~30日に横浜で開催される第67回日本腎臓学会学術総会でも緊急シンポジウムの開催が検討されている。

(ケアネット 土井 舞子)