SPRINT試験で認められた厳格降圧(収縮期血圧目標:120mmHg未満)および標準降圧(同:140mmHg未満)のリスク・ベネフィットが、慢性腎臓病(CKD)を有するSPRINT試験適格の高血圧患者にも適用できるかどうかを調査した結果、SPRINT試験と同様に厳格降圧による予後改善効果は認められたものの、重篤な有害事象も多かったことを、米国・スタンフォード大学のManjula Kurella Tamura氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2025年1月7日号掲載の報告。
SPRINT試験において、糖尿病または脳卒中の既往がなく、心血管イベントリスクが高い高血圧患者では、厳格降圧のほうが標準降圧よりも死亡や心血管イベントなどのリスクが低減した。その一方で、急性腎障害などの特定の有害事象が増加したことや、進行したCKD患者では厳格降圧による心血管系へのメリットが減弱する可能性があることも示唆されている。そこで研究グループは、SPRINT試験の結果が、実臨床におけるCKDを有する高血圧患者にも適用可能かどうかを評価するために試験を実施した。
2019年1月1日~12月31日に米国退役軍人保健局(VHA)とカイザーパーマネンテ南カリフォルニア病院(KPSC)の電子健康記録データベースから、CKDを有し、かつSPRINT試験の適格基準を満たす高血圧患者を抽出して、SPRINT試験のベースラインの共変量データ、治療データおよびアウトカムデータと、VHAとKPSC集団の共変量データを組み合わせ、治療効果を推定した。分析は2023年5月~2024年10月に実施された。主なアウトカムは、4年時点での主要な心血管イベント、全死因死亡、認知障害、CKD進行、有害事象などであった。
主な結果は以下のとおり。
・VHAからは8万5,938例(平均年齢:75.7[SD 10.0]歳、男性:95.0%)、KPSCからは1万3,983例(77.4[9.6]歳、38.4%)が抽出された。SPRINT試験の参加者9,361例(67.9[9.4]歳、64.4%)と比較すると、年齢が高く、心血管疾患の有病率が低く、アルブミン尿を有する割合が高く、スタチンの使用量が多かった。
・厳格降圧および標準降圧と主要な心血管イベント、全死因死亡、有害事象との関連は、SPRINT試験からVHAおよびKPSC集団の両方に適用可能であった。
・厳格降圧群は、標準降圧群と比較して、4年時点での主要な心血管イベントの絶対リスクがVHA集団で5.1%、KPSC集団で3.0%低かった。
・全死因死亡の絶対リスクは、厳格降圧群のほうがVHA集団で2.8%、KPSC集団で2.3%低かった。
・重篤な有害事象のリスクは、厳格降圧群のほうがVHA集団で1.3%、KPSC集団で3.1%高かった。
・VHA集団においてのみ厳格降圧による腎臓関連アウトカムとeGFRの50%超低下のリスク低減が認められたが、信頼区間が広く、メリットがない可能性も考えられた。
これらの結果より、研究グループは「SPRINT試験で観察された厳格降圧および標準降圧のリスク・ベネフィットは、臨床におけるCKDを有するSPRINT試験適格の高血圧患者にも適用可能であった。厳格降圧を実施する利点が示されたものの、有害事象のリスクは増大したことから、高血圧治療の決定では患者の希望を考慮することの重要性が強調された」とまとめた。
(ケアネット 森)