乳房切除術中のリンパ節生検は過剰治療につながる可能性も

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/05/29

 

 早期の乳がんと診断され乳房切除術を受ける女性に対し、術中にリンパ節(腋窩リンパ節)への転移の有無を調べる、腋窩センチネルリンパ節生検(以下、センチネルリンパ節生検)が行われた場合、術後にその後の治療方針が検討された場合と比べて、過剰治療につながりやすくなる可能性のあることが、米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院および米ダナ・ファーバーがん研究所の乳房腫瘍外科医Olga Kantor氏らが実施した研究で示された。この研究結果は米国乳腺外科学会(ASBrS 2023、4月26~30日、米ボストン)で発表された。

 センチネルリンパ節生検は、乳房からがん細胞が最初に到達する脇の下の「センチネル」というリンパ節を摘出して転移の有無を調べる検査だ。もし転移が認められた場合には、がん再発を防ぐ目的で脇の下の多くのリンパ節を切除(腋窩リンパ節郭清)することになる。腋窩リンパ節郭清では、手術側の腕に重度かつ衰弱性の浮腫が生じることがある。

 センチネルリンパ節生検を、術後ではなく術中に行えば、患者は2回目の手術を回避できる。しかし、専門家の説明によると、こうしたリアルタイムのアプローチは、近年、減少傾向にある。それには、放射線療法やホルモン療法などの新しい治療法によって多くの乳がん患者で腋窩リンパ節郭清は回避可能なことを示した研究結果が大きく影響している。

 さらに、今回の研究には関与していない米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン・ヘルスPerlmutter Cancer Centerの腫瘍外科医であるFreya Schnabel氏の話によると、術前の広範囲にわたる画像検査のおかげで、外科医は転移を有するセンチネルリンパ節が1つなのか2つなのか、腋窩リンパ節郭清を回避できるのかどうかを手術前に予測できる場合が多いという。これらの理由から、術中にセンチネルリンパ節生検を行う必要性は失われつつあるのが現状だ。

 実際、現在は乳房の腫瘍のみを摘出する腫瘤摘出術を受ける女性に対しては、センチネルリンパ節生検は術後に施行されるのが通常になっている。一方、乳房切除術を受ける女性に対する術中のセンチネルリンパ節生検の施行は、完全にはなくなっていない。「術中にセンチネルリンパ節生検を行わなくなった医療施設は多いが、施設によって対応にばらつきがある」とKantor氏は言う。今回の研究は、こうした施設間のばらつきが患者のその後の治療に与える影響を明らかにするために実施された。

 この研究では、米国のがん患者のデータベースを用いて、2018~2019年に乳房切除術を受けた8,216人の女性の情報を収集した。これらの女性は、腫瘍のサイズが5cm未満で、センチネルリンパ節に1~2個のがん転移が認められた(cT1-2N0)乳がん患者だった。このうち62.8%の女性は術後に、残る37.2%の女性は術中にセンチネルリンパ節生検を受けていた。

 解析の結果、術中にセンチネルリンパ節生検を受けた女性では、術後に受けた女性に比べて、腋窩リンパ節郭清と腋窩への放射線治療の両方を受けた女性の割合が有意に高いことが明らかになった〔ミクロ転移(転移巣の大きさが2mm以下)の認められた女性で17.2%対0.6%、マクロ転移(転移巣の大きさが2mm超)の認められた女性で43.4%対7.3%、ともにP<0.001〕。

 Kantor氏は、「センチネルリンパ節生検のタイミングは重大な影響をもたらし得る。術後に行えば、その患者の治療に関わる他の医師が意思決定に参加できるが、術中に行う場合、その患者の全体的な治療計画を把握していない外科医がその場で判断することになる可能性があるからだ」と指摘する。一方、Schnabel氏も、「今回の研究結果は術後にセンチネルリンパ節生検を行うことのメリットを示したものだ」とした上で、「術中のセンチネルリンパ節生検はより優れた外科的な意思決定であったという結果は得られなかった。むしろ、過剰治療をもたらし、患者を治療による副作用のリスクにさらしてしまった可能性がある」と述べている。

 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。

[2023年4月27日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら