心筋梗塞を経験した人は通常、その後、何年にもわたってβ遮断薬を服用する。しかし、生じた心筋梗塞が軽度だった場合には、その必要はない可能性のあることが新たな研究で明らかになった。心臓のポンプ機能が正常な心筋梗塞の患者に1年以上β遮断薬を投与しても、投与しなかった患者と比較して心血管アウトカムが改善するわけではないことが示されたのだ。ウプサラ大学(スウェーデン)医学部の循環器専門医であるGorav Batra氏らによるこの研究結果は、「Heart」に5月2日掲載された。
β遮断薬は、交感神経のβ1受容体を遮断して心拍数を低下させ、心筋の収縮性を弱めることから、高血圧や頻脈性不整脈、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患、心不全などの治療薬として用いられている。過去の研究では、心筋梗塞により心不全を発症した人では、β遮断薬により転帰が改善することが示唆されている。しかし、心不全や左室収縮機能障害(LVSD)が生じていない軽度の心筋梗塞経験者においても、β遮断薬の長期使用が有用であるのかどうかについては、明確になっていない。
Batra氏は、「軽度の心筋梗塞経験者に対するβ遮断薬の長期投与は、冠動脈バイパス術などの再灌流療法や抗血栓薬などによる薬物療法がなかった頃に実施された臨床試験の結果に基づき実践されている」と説明する。そこで同氏らは、スウェーデンの心筋梗塞患者に関する2005〜2016年の全国登録データを用いて、軽度の心筋梗塞を発症したが、心不全やLVSDは生じていない患者に対するβ遮断薬の1年以上にわたる投与について検討した。
対象者は、上記の条件を満たす心筋梗塞を発症した、18歳以上の4万3,618人(平均年齢64歳、女性25.5%)。このうち、3万4,253人(78.5%)は心筋梗塞による入院から1年後の時点でもβ遮断薬の使用を継続していたが、残りの9,365人(21.5%)は使用していなかった。
ITT解析の結果、中央値4.5年の追跡期間中に、複合アウトカムとした全死亡、心筋梗塞の再発、予期せぬ血行再建術、心不全による入院の100人年当たりの発生件数は、β遮断薬使用群で3.8件、β遮断薬非使用群で4.9件と、遮断薬使用群の方が少なかった(ハザード比0.76、95%信頼区間0.73〜0.80)。しかし、傾向スコアによる逆確率重み付けと結果に影響を及ぼし得る因子を調整して解析すると、両群間で複合アウトカムのリスクに差は認められなくなった(同0.99、0.93〜1.04)。
こうした結果についてBatra氏は、「本研究は臨床試験ではないため、得られた結果は、軽度の心筋梗塞経験者がβ遮断薬を長期使用してもメリットがないことを証明するものではない」と述べ、慎重な解釈を求めている。その上で同氏は、「本研究の結果により、現行の治療法が改められることはないが、今後、臨床試験で検討すべき重要な問題を提起したことは確かだ」との見方を示している。
一方、本研究には関与していない、米コロンビア大学アービングメディカルセンターのAjay Kirtane氏は、「軽度の心筋梗塞の発症者では、短期的にはβ遮断薬が有効な可能性がある。実際、心筋梗塞の発症直後には、心臓のポンプ機能が多少は低下していることがあるからだ」と述べる。そして、「軽度の心筋梗塞経験者にβ遮断薬を処方すべきではないというのは言い過ぎであり、大きなリスクを伴う。しかし、1年以上にわたってβ遮断薬を服用している患者は、担当医にこの薬剤がまだ自分に必要なのかどうかを尋ねてみると良いだろう。β遮断薬は倦怠感やめまいなどの副作用を伴うため、薬剤が必要ないのであれば、そのような問題を回避することができる」と助言している。
[2023年5月4日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら