多くの副作用のあることが明らかであるにもかかわらず、筋肉量の増加やパフォーマンスの向上という誘惑を断ち切れずに、蛋白同化ステロイドを利用しているボディービルダーやアスリートが存在する。しかし、たとえ同薬の使用を中止しても、健康への悪影響は長期間続くことを示す2件の研究結果が、第25回欧州内分泌学会(ECE2023、5月13~16日、トルコ・イスタンブール)で報告された。いずれも、コペンハーゲン大学病院(デンマーク)のYeliz Bulut氏が発表した。同氏は、「ドーピングを行っている人々へのメッセージは明らかであり、それをやめることだ」と語っている。
一つ目の研究は、レクリエーションレベルの筋力トレーニングを行っている18~50歳の健康な男性64人を対象に行ったもの。この対象のうち28人は蛋白同化ステロイドを使用中、22人は以前使用していたことがあり、14人は一度も使用経験がなかった。陽電子放射断層撮影・コンピュータ断層撮影(PET-CT)により心筋血流量を評価したところ、蛋白同化ステロイドを使用中の群と以前使用していた群は、一度も使用経験がない群に比べて心筋血流量が低下していた。なお、この研究の蛋白同化ステロイド中止群の大半は、研究参加の1年以上前に同薬の使用を中止していた。
二つ目の研究は、18~50歳の男性を対象に、テストステロン(男性ホルモン)の測定と主観的な健康観に関するアンケートを行うというもの。対象者のうち89人が蛋白同化ステロイドを使用中、61人が元使用者、30人が使用経験なしだった。元使用者の約4分の3は、研究参加の1年以上前に使用を中止しており、ほかの元使用者は2年以上も前に中止していた。解析の結果、元使用者は倦怠感が強くて社会的機能と精神的幸福感が低下するなど、身体的・精神的健康状態が不良であることが分かった。また、元使用者はテストステロンレベルが低値だった。
Bulut氏は、「蛋白同化ステロイドを使用していると、その中止後も数年間は、生活の質(QOL)の低い状態が続くようだ。これは、同薬の使用中止による離脱症状と、テストステロンレベルが急速に低下することの双方が関与しているのではないか」と述べている。現在、同氏らは、蛋白同化ステロイド中止後の心臓病リスクとQOLの変化を、より大規模なサンプル数で確かめる研究を計画している。
これらの研究には関与していない、米ミシガン大学のRichard Auchus氏は、アスリートにとって最も賢明な方法は同薬を使用しないことであるとするBulut氏の主張に同意を示した上で、「筋肉量を増やしたり健康的になろうという目標自体は立派だが、やっていることは薬物乱用とほとんど変わらない」と論評。また、「蛋白同化ステロイドを用いると、長期的にさまざまな悪影響が生じ得る。しかしながら、リスクを冒すことに頓着しない若者たちの行動を思いとどまらせるのは、なかなか困難なことでもある」と話している。
なお、学会発表された研究は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。
[2023年5月16日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら