救急科は安全?医療従事者と患者への調査

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/06/30

 

 医療従事者と患者の双方が救急科(ED)の安全性を疑問視している実態が、欧州救急医学会(EUSEM)が実施した国際調査により明らかになった。医療従事者に対する調査の結果はEnte Ospedaliero Cantonale(スイス)のRoberta Petrino氏らにより「European Journal of Emergency Medicine」に5月24日発表され、また、EUSEM会長のJames Connolly氏が執筆した付随論評が同誌に5月26日掲載された。

 医療従事者に対する調査では、世界101カ国のED医療従事者1,256人(医師1,045人、看護師199人、救急医療隊員や薬剤師など12人)から寄せられた回答が分析された。その結果、「患者数は、安全な医療を提供できるEDのキャパシティーを超えている」に対し、「時々当てはまる」と「常に/たいてい当てはまる」と答えた者の割合がそれぞれ32.02%と59.92%と合わせて90%を超えており、EDの抱える問題として過密さが浮き彫りになった。EDの過密さは、損害や死亡の実質的なリスク増加を伴うことが、過去の研究で報告されている。また、調査からは、繁忙時のEDスタッフの数が十分だと感じている調査参加者の割合は、医師で22.4%、看護師で20.7%にとどまり、人手不足も大きな問題であることが示された。

 Connolly氏によると、患者に対する調査結果はさらに懸念すべき内容であったという。EDスタッフについて、「親切」よりも「怒っている」または「ぶしつけ」と感じたことを報告した患者の方が多かったからだ。同氏は、「調査に参加した医療従事者のかなりの割合が、『EDで働くことに誇りを持っている』と回答したことを考えると、患者が受けたこのような印象は、スタッフの疲弊やフラストレーションに起因している可能性がある」との見方を示している。患者からは、「患者がたくさんいるのに医師はとても少ない。一部の看護師は、大いにストレスがたまっているようだった」という声がよく聞かれたという。

 実際、調査結果からは、看護師の方が医師よりも強く安全性に問題を感じており、特に精神に問題のある患者と接する場の安全性に対する懸念の強いことが示されたという。Connolly氏は、「概して、医師よりも看護師の方が患者と接する時間が長いため、この結果は理解できるものの、問題であることに変わりはない」と話す。同氏はさらに、「昨年のEUSEMによるEDスタッフのバーンアウトに関する調査でも、若くて経験の浅い医療従事者の方が、経験豊富な年配の医療従事者よりもバーンアウトに陥りやすいことが示された。このパターンが繰り返されることに大きな不安を感じているし、それを改善するための措置がほとんど講じられていないのは全く受け入れがたいことだ。どちらかといえば、状況は以前よりも悪化しているのではないか」と懸念を示す。

 患者のケアを改善するためには、目標設定が有効になり得ることが過去に示されている。しかし、今回の調査結果からは、多くの医療従事者が、医療機関が重大な負荷にさらされているときには外部からのそのような目標設定はプレッシャーとなり、患者のケアに支障を来す可能性があると考えていることが明らかになった。また、調査対象者の54.2%は「恒常的に外的なプレッシャーにさらされている」と回答した。このほか、「病院の管理職がEDでの患者の安全性を改善するために手を差し伸べたことがある」と「病院が定めた手順はEDのフローを改善する上で有効である」に「まったく/ほとんど当てはまらない」と回答した者の割合は、それぞれ35.43%と47.62%に上った。

 注意を要するのは、調査対象となった患者の中に、EDでの安全性に大きな不安を感じている人がいたことだ。そうした患者は、EDの混雑ぶりや長い待ち時間、スタッフの疲労が医療ミスにつながるのではないかとの考えから、「EDに行きたくない」と回答したという。

 Connolly氏は、「EDの医療従事者には、仕事に適切な環境とサポートが必要だ。一方、患者には、EDに行けば最善の治療を受けられると安心してもらう必要がある。しかし、現状はそれとは程遠い。政府や医療機関は、EDの状況の悪化を止めるのが手遅れになる前に、すぐにでも現状を改善する必要がある」と主張している。

[2023年5月26日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら