進行肺がん患者の予後は、免疫チェックポイント阻害薬の登場によって大幅に改善した。しかし、進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対して同薬による治療をどの程度の期間、継続する必要があるのかについては明らかになっていなかった。こうした中、新たな研究で、免疫チェックポイント阻害薬による治療開始から2年後の時点でがんが進行していない安定した状態の患者であれば、同薬の使用を中止しても生存期間に影響しないことが示された。米ペンシルベニア大学血液・腫瘍科学分野のLova Sun氏らによるこの研究結果は、米国臨床腫瘍学会(ASCO 2023、6月3~7日、米シカゴ)で発表され、「JAMA Oncology」に6月4日、同時掲載された。
免疫システムの重要な武器の一つであるT細胞には、がん細胞を死滅させる力がある。しかし、肺がんを発症すると、がん細胞の表面のタンパク質がT細胞の表面の特定のタンパク質を見つけて結合し、T細胞の働きにブレーキをかけてしまう。免疫チェックポイント阻害薬は、この結合を防ぐことでT細胞の活性化抑制を解除する作用を持つ。
Sun氏らは今回、全米の電子医療記録データベースを用いて2016~2020年に進行NSCLCと診断された1万4,406人の患者データを収集し、免疫療法の継続期間と患者の全生存率との関連を、2年で治療を中止した患者とそれ以降も治療を継続した患者との比較で検討した。対象患者は、全例が免疫チェックポイント阻害薬による治療を受け、一部の患者はそれに加えて化学療法を受けていた。
治療開始から700日後の時点で免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けており、追跡(760日後以降)が可能だったのは1,039人だった。このうち188人は治療開始から2年後(700〜759日後)に同薬の使用が中止され(治療中止群)、851人は2年後以降も同薬による治療が継続されていた(治療継続群)。最終的に、追跡開始前にがんの進行が認められた患者と、治療中止の同月または翌月に死亡した患者(治療中止群のみ)を除外した、治療中止群113人(年齢中央値69歳、女性54.9%)と治療継続群593人(年齢中央値69歳、女性47.6%)が解析の対象とされた。
解析の結果、追跡開始後2年間の全生存率は、治療中止群で79%、治療継続群で81%であった。治療継続群と比べた治療中止群の死亡の調整ハザード比は1.33(95%信頼区間0.78〜2.25、P=0.29)であり、統計学的な有意差は認められなかった。
この結果について、Sun氏は「かなり魅力的だ」と評する。また、2年後に治療を中止し、その後、がんが進行した患者もわずかにいたが、同じ治療薬の使用を再開することで臨床的なベネフィットを得ることができた点に言及し、「これらの結果は、免疫チェックポイント阻害薬の使用を中止した患者に対しても経過観察を続けるべきであること、また免疫療法の再チャレンジについても考慮すべきことを示すものだ」と付け加えている。
Sun氏は、長期間の免疫療法が大きな毒性のリスクを伴うほか、免疫療法の費用は高額で、治療期間が長くなればなるほど患者の負担額も増える傾向にある点も指摘している。米国立がん研究所(NCI)によると、免疫チェックポイント阻害薬には、皮疹や下痢、倦怠感などさまざまな副作用のリスクがある。まれにではあるが、同薬による治療によって全身に炎症が起こり、臓器の正常な機能が損なわれることもある。
今回の研究には関与していない米ティッシュがん研究所のThomas Marron氏によると、免疫チェックポイント阻害薬の登場により、肺がん患者の平均余命は基本的に2倍延長し、患者の10~30%ではがんが治癒する可能性もあるという。その一方で、居住地域や加入している保険にもよるが、患者にとってはがん治療に伴う経済的な負担による「経済毒性」が大きな問題となり、長期間の治療による副作用も懸念されるべき問題だと同氏は指摘している。
Marron氏は、治療が奏効しているときにその治療を中止することに対してナーバスになる患者や医師がいることを認めた上で、「治療開始から2年の時点で寛解している患者のほとんどは、治療を中止してもその状態が維持されることが多くの研究で示されている」と説明している。
[2023年6月9日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら