乳幼児期に質の高い保育を受けた小児は、高校生のときの科学、技術、工学、数学(STEM)科目の成績が良好であり、特に低所得世帯の小児でその傾向が強いという研究結果が、米カリフォルニア大学アーバイン校のAndres S. Bustamante氏らにより、「Developmental Psychology」に6月15日掲載された。Bustamante氏は、「この結果は、STEM分野での成功につながる強力な基盤が、乳幼児期の保育の質により形成され得ることを示唆するものだ」と述べている。
低所得世帯の小児では、質の高い保育が、学校で学ぶための心身の準備性(レディネス)と関連することが、過去の研究で示されている。しかし、質の高い保育が高校でのSTEM科目の成績に及ぼす影響を検討した研究はほとんどない。
今回の研究では、米国立小児保健・人間発達研究所(NICHD)が実施した発達初期の保育と小児の発育に関する研究に、小児が出生した1991年から2006年まで参加した979家族のデータが用いられた。同研究では、訓練を受けた観察者が、対象小児が月齢6、15、24、36、54カ月のときに、小児の保育園や幼稚園、在宅保育の現場を1週間当たり10時間以上訪れて、保育について以下の2点の観点で評価を行った。それは、1)保育者がどの程度思いやりのある支援的な環境を提供し、またどの程度小児の興味や感情に反応しているか、2)保育者が、多様な言葉や表現の使用、小児の考えを探るための質問出し、概念に対する小児の理解を深めるためのフィードバックの提供を通して、どの程度子どもに認知刺激を与えているか、の2点だった。
その後、対象小児の小学校と高校(15歳時)でのSTEM科目の成績を調べた。具体的には、小学校での成績は、3年生から5年生までの数学と論理的思考の共通テストの点数を調べ、高校での成績は、共通テストの点数、科学と数学の上級コースの修了状況とGPA(Grade Point Average;成績評価の平均値)を調べた。その上で、乳幼児期の保育の質と高校でのSTEM科目の成績との関連について検討した。
その結果、小児が受け取る認知刺激が多く、また保育者の感受性と応答性が高い保育環境は、小学校3年生から5年生の間のSTEM科目の良好な成績の予測因子であり、それがひいては高校でのSTEM科目の良好な成績の予測因子になることが明らかになった。また、保育者の高い感受性や応答性と、高校でのSTEM科目の良好な成績の関連は、高所得世帯の小児よりも低所得世帯の小児でより強いことも示された。
Bustamante氏は、「われわれの立てた仮説は、認知刺激がSTEM科目の成績とより強く関連するというものだった。なぜなら、保育者と小児との間のそのようなやりとりが、STEM学習で鍵となる探求心や探究心の基礎となるからだ。しかし、この研究では、保育者の高い感受性と応答性も、認知刺激と同程度にSTEM科目の良好な成績を予測する因子であることが示された。この結果は、小児の社会的感情の発達と、認知的スキルおよび社会感情的スキルをサポートする環境の重要性を強調している」と述べている。
その上でBustamante氏は、「今回の研究により、幼児期に保育者が与える認知刺激、および保育者の感受性と反応性は、特に低所得世帯の小児にとっては、STEM分野に進んで良好な成績を得るためのパイプラインであり、その強化のために投資すべき分野であることがはっきりと示された」と結論付けている。
[2023年6月15日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら