手術中に心肺停止に陥ったフレイル患者に心肺蘇生法(CPR)を実施した場合、より体力のある患者にCPRを実施した場合よりも死亡する可能性の高いことが、新たな研究で明らかになった。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院麻酔科のMatthew Allen氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に7月3日掲載された。
通常、病院内で心肺停止に至りCPRを受けた患者の生存率は25%程度と推定されているが、手術中または手術直後のCPRでは、患者の病歴を知る専門医の注意深い監視と迅速な介入が可能なため、生存率は50%にまで上昇する。しかし、高齢であることが多く、CPR関連の傷害や合併症が生じやすいフレイル患者にもこのような傾向が当てはまるのかどうかについては明らかにされていない。そのため、医師の中には「フレイル患者に対する手術室でのCPRは無益なのだろうか」との疑問を抱く者もいる。
こうした疑問を解決するために、Allen氏らは、米国外科学会(ACS)の外科医療品質向上プログラム(National Surgical Quality Improvement Program)のデータベースを用いて、フレイルと周術期のCPR後の転帰(30日間の死亡率、自宅以外の場所への退院)との関連を検討した。対象は、2015年1月1日から2020年12月31日の間に非心臓手術を受け、手術当日にCPRを受けた50歳以上の患者3,149人〔平均年齢(四分位範囲)71(63〜79)歳、女性55.9%〕。対象者のフレイルは、Risk Analysis Index(RAI)で評価した。RAIでは、通常はスコア30点以上で「フレイルあり」と判定するが、本研究ではスコアが30点未満だった対象者が少なかったため(平均スコアは37.73点)、40点未満を「フレイルなし」、40点以上を「フレイルあり」として2群に分けた。
必要なデータのそろった3,058人を対象に、30日死亡率について検討した。このうち792人(25.9%)の患者が「フレイルあり」に該当し、そのうちの534人(67.4%)が手術中にCPRを受けてから30日以内に死亡していた。多変量ロジスティック回帰モデルによる解析からは、フレイルと30日死亡率との間に有意な関連が認められた〔調整オッズ比(aOR)1.35、95%信頼区間(CI)1.11〜1.65、P=0.003〕。CPR後の死亡とフレイルとの関連は、手術の緊急度によって異なっていた(非緊急手術の場合のaOR 1.55、95%CI 1.23〜1.97、緊急手術の場合のaOR 0.97、95%CI 0.68〜1.37)。
一方、自宅から入院して退院した1,164人の患者(フレイル患者214人、非フレイル患者950人)のうち、449人が自宅以外の場所へ退院していた〔フレイル患者127人(59.3%)、非フレイル患者322人(33.9%)〕。30日死亡率と同様、自宅以外の場所への退院リスクもフレイルと有意に関連していた(aOR 1.85、95%CI 1.31〜2.62、P<0.001)。
こうした結果を受けて研究グループは、「フレイル患者は非緊急的な手術中に生じた心肺停止により死亡するリスクが、非フレイル患者よりも高かった。これは、フレイル患者では、手術全般において死亡リスクが高いことを意味している」と指摘。「この結果は、どんなに安全そうに見える手術であっても、フレイル患者には手術リスクについて伝えるべきだという、医師に対する重要な注意喚起のメッセージとなるものだ」と同病院のニュースリリースで述べている。
Allen氏は、「今や手術リスクの高低ではなく、患者のリスクの高低が考慮すべき規範となりつつある。この研究結果は、フレイル患者にとってリスクの低い手術など存在しないことを示す新たな例の一つだ」と話している。
[2023年7月6日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら